◎病棟日誌 R061024 今日のサヨナラ
この日は看護師のキム君の出勤最終日。
たまたま当方の穿刺担当になった。
「キーホルダーをあげるよ。これは福の神さまだから、信じれば幸運がやって来る」
まずは健康長寿、家内安全、その次くらいが財運か。下手に不労所得が入ったりすると、生き方を過つから、最初の二つの方が大切だ。
でも二十台の若者にはあれやこれやのゆめも必要だな。
「下駄箱に一万円が放り込んであったら、キム君が当てたなと思うから」
「ジャンボの話をしていたら、姉に『そんなのはバカらしい』と言われました」
「別に思い描くのは構わんよ。現実になるかどうかは別として、払った金の分くらいの妄想を描く分にはバチは当たらない」
女性タレントを見て、「素敵だな。デートしてみたいな」と思うのは、何も問題ない。先方もそう思わせるのが商売なのであって。「現実に出会うチャンスが無いから考えるのもダメ」というのは、発想に奥行きが無い。
「まずは信じろ。宝くじ当籤以前に、自分の成功を信じることが大切で、一番重要なのは、それをやり遂げるまで諦めぬ自分自身を信じる姿勢が明日を開くんだよ」
さすが早坂先生は良いことを言うぞww。
当方の導く「わらし様」の威力を知れば、すぐに信じるようになる。信じれば、ひとりでにどんどん良くなって行く。
この数年の当方の惨状と、今の状態は天地の差がある。
ま、身体機能自体は有限だから、ボロボロではあるが、本来はもっと早くに死んでいた筈だわ。
「若い者は頑張れる。頑張れよ」
終わりの担当は、背の高いTさんだった。
次週の「病院祭り」についてあれこれ聞いた。
やはり当番が決められ、当たった看護師や職員が休日出勤で対応するらしい。
「その代わり代休がありますから」
そりゃそうだわ。
「救急車乗車体験とか、手術室見学とかあれば面白いのに」
信号を顧みず、ぶっ飛ばす。わあわあサイレンを鳴らしてだ。
みたいなことを考えたら、血圧が190くらいまでパッと上がった。
おかげで終了後再検査に。
ま、頭を切り替えれば、すぐに下がる。
治療終了後、再び血圧を計測すると、上が113だった。
つまりはそういうこと。
一日の中で、血圧が上下するのはごく普通に起きている。
たまたま上がっていたから即どうだということはない。
上は簡単に上がる。
食べ物のことを考えたり、女性のことを考えるだけでパッと上がる。
重要なのは下の方。
ま、幾度計測しても「下が95」より下がらなかったら、紛れもなく高血圧で、それがもし100を超えてれば、破綻は間近だ。すぐに病院に行け。
古株患者のAさん(50台)の姿は今日も無い。
どうやらこの人ともサヨナラだな。
この病棟では、体調が下り始めると、見る見るうちに歩けなくなり、車椅子に数週間乗った後、パッと姿を消す。
何十人と見て来たから、顔を見ると「あとこれくらいだな」と想像がついてしまう。
こういうのもあるから、鏡を見るのを極力避けるようになる。
ま、既に諦観に達しているから、特別な感情はない。
日々をなるべく楽しく過ごせればそれでよい。
このひと月ふた月で、熟練した看護師がかなり辞めた。
こういう感じの時にはトラブルが起きやすいから、警戒する必要がある。師長に言って置いた方がよさそうだ。