日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第171夜 入り江にて

先ほど、仮眠中に見た夢です。
 
オレは海辺の町に住んでいる。
沿岸警備隊の隊員で、海や船を見張るのを仕事にしている。
入り江の一番奥から100メートルほど出た海の中に大きな岩があるのだが、その上に監視所があり、そこで海を見ている。
大岩の高さは30メートルほどで、ここから岸までは浮き橋を渡って行き来する。
 
入り江の奥の浜には、警備隊の事務所があるが、ここには所長とオレのほかに2人の隊員が詰めている。
計4人がこの町の警備隊だ。
所長の名前はジョー・マウアーで、有名な野球選手と同じ名だ。
朝夕は船が出入りするので、監視が必要だが、日中はほとんどすることもない。よって、1人は一応監視所に立っているが、他は事務所の前で日向ぼっこをしたり、釣りをしている。
 
正午過ぎに、いつものようにオレは監視所にいた。
入り江の先は大海原で、青い空と白い波が見えている。
「今日も天気がいいなあ」
ここは小さな町で、船もあまり多くはない。
日頃眺めるのは、ひたすら真っ直ぐな水平線と、だだっ広い空だけだ。
 
遠くの海を眺めるのに飽き、監視所の下に視線を落とした。
オレは監視所から釣り糸を下ろし、晩飯のおかずを調達しようとしていたのだ。
赤い色の浮きが波の間に見えている。
しばらくすると、その浮きの近くに、何か生き物が寄ってきた。
「あ。ケーパーだ」
ケーパーとは、磯に住む爬虫類で、水棲イグアナの仲間だ。
体長は1.5メートルにも及ぶものがいる。
概ね磯にいるわけだが、この岩の回りにも、7、80匹がたむろしている。
今日はどうしたことか、ケーパーたちが岩から泳ぎ出ていた。
「どうしたんだろうな」
その爬虫類たちは、海を泳いで、一斉に岸に向かおうとしていた。
 
すると、群れをなして浜に向かうケーパーが、ぐぐっと沖に引き寄せられた。
「あれ?これって」
海水全体が退いているのだ。
ぞぞっと音を立て水が退いていくが、その水の退いた後は海の底が露わになっていた。
「わ。これは津波が来る前触れだ!」
後ろを振り返ると、遠く外海には、もはや白い大きな壁が見えていた。
「うわ。こりゃいかん」
監視所の裏には、大きな吊り鐘があり、危険が生じた時にはこれを打ち鳴らすことになっている。
オレはこの鐘に走り寄り、木槌で思い切り叩こうとした。
木槌を振り上げた瞬間に、あろうことか、吊り鐘を吊るすワイヤーがぷつんと切れてしまい、鐘が落ちた。
吊り鐘はごろごろと転がり、ドッポーンと音を立て海に落ちた。
 
オレはあわてて監視所に戻り、浜の事務所に向かって叫んだ。
「所長!津波です!津波が来ます!」
所長は事務所の前の折り畳みチェアーに寝そべり、日向ぼっこをしていた。
オレの叫びは所長には届かないらしく、所長は起き上がろうとしない。
「眠っているのか。所長!起きろ」
オレは思い切り叫ぶが、その声は後ろから来る「ぞぞ」という水音にかき消された。
重苦しい音だ。
後ろを振り向くと、もはやすぐ近くまで大きな波が寄せていた。
監視所の岩と同じくらいの高さで、海面から30メートルはありそうだ。
「こりゃいかん」
すかさず、ザッパーンという音を立て、波が監視所を洗う。
オレは監視所の柱にしがみつくのがやっとで、それから何分間かひたすら水流を耐えた。
例えようもない長い時間が過ぎると、今度は逆方向に波が退き始める。
退き波の高さは、監視所には届かず、オレは柱にしがみついたまま、周囲の状況を眺めた。
回りの海は真っ黒で、大小の船が沖に流されようとしていた。
 
「マウアー所長。みんな・・・」
波が退いてみると、入り江の町は全滅で、建物すべてがなぎ倒されている。
あまりの惨状に、少し気が遠くなった。
 
数時間後、行方不明者の捜索が始まった。
浜に残っていた小舟をかき集め、難を逃れた町民たちが海に出る。
皆、先に鉤の付いた長い棒を持ち、これで漂流物を除去しながら、入り江を探した。
「まだ生きていて、漂流物につかまっている人がいるかもしれない」
もちろん、亡くなった人も舟に乗せることになる。
行方不明になっている人は、町全体で百人を超えている。
 
もはや夕方で、捜索船の舳先にはカンテラが取り付けられている。
薄暗くなっていく海のあちこちで、カンテラの灯りが揺れていた。
 
ここで覚醒。
私は20歳台で、ジャックという名前だったと思います。