日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第262夜 ドン・ファン

月曜の夕食後、例によって居眠りをしました。
これはその時に観た短い夢です。

我に返ると、オレは道に立っていた。
「ここはどこ?オレは一体誰なんだろ」
右手に何かメモを持っていたので、それを開いて見る。
「ゴールデンパレスホテル」と書いてあった。
中級だなこりゃ。日本にはこういうネーミングは少ない。
しかし、もしここが東南アジアなら、かなりの高級ホテルだ。

乳母車を押した女性が通りかかる。
日本人だった。
(良かった。言葉が通じる。)
その女性を呼び止めて、メモを見せた。
「あの。ここに行くつもりなのですが、どうやって行けば良いでしょう」
清楚なお母さんが微笑む。
「これから私もそこに行きます。この近くですから、一緒に参りましょう」
若いのに、ずいぶん丁寧な言葉遣いだ。

ホテルは予想以上に立派な建物だった。
すぐにチェックインして、部屋に入る。
最初に姿見で自分を見た。
オレは30台後半。と言うよりアラ40だろ。
礼服のようなダークスーツを着ている。
風采の上がらない、痩せた中年男だ。

コンコン、とノックの音がする。
ドアを開くと、外に立っていたのは、オレと同じくらいの年恰好の女性だった。
「来ちゃった」
誰だろ、この女。
この女も黒いドレスだ。
「入っても良い?」
「ああ」
中に招き入れる。

「こういうことでも無ければ、独りで外泊は出来ないわね」
ま、年齢的に亭主持ち。かつ2人くらいの子持ちだろ。
礼服を着てるところを見ると、どうやら共通の知人に不幸があって、それでこの街に集まった、てな感じだ。
「由梨坊は?」
「明日。明日の朝に来て、式に出て、そのまま帰るか、ここに1泊という人が多いみたいだよ。タカシは?」
「連絡無し。何も聞いてないな」
それどころか、そいつが誰かも覚えていない。最初に口から勝手に名前が出た「由梨」という女の子のこともだ。

「先にシャワーを浴びるね」
女はさっさと上着を脱ぎ、下着姿になる。
年の割にはスタイルがきれい。子どもはいないのかも。
何気なくそのまま眺めていると、女は「あっち向いてて」とオレに言い付けた。
ありゃりゃ。この雰囲気は、もしかしてこれから「出来ちゃう」ってこと?
その辺は「誰でも来い」のオレだが、しかし今は相手が誰だかすらわからない。
ここに来て、「ところで、あんたは誰?」とはとても訊けないよな。

試しに何か言ってみよう。
「同窓会は出るの?」
テキトーな話だが、オレたちくらいの年齢なら、そろそろやってそう。
女が振り向く。
「まだ1年先のことじゃない。それに、女子校の同窓会なんて、大体はダンナ自慢で始まりダンナ自慢で終わるんだから、出るかどうかもわからない」
「そっか」
「ケンジ君の方は?」
「オレはもう同窓会みたいなのは出ない」
「還暦過ぎてからにするの?」
「もしその頃もオレが生きてるならね」
「卒業してから、もう20年経つのね」
良かった。これで分かったぞ。オレとこの女は、高校時代に付き合っていたわけだな。
近くに住んでいたが、高校は別。この女は女子校だ。
たぶん、最近、偶然再会して、こういう関係になったんだろ。
お互いに、不平不満の多い年頃だもの。

女がバスルームの扉を開く。
白い背中が眩しい。でも、この女の名前は何だっけな。
しばらくすると、女が出て来る。
それからすぐに、オレたちは男と女でするべきことをした。
ことが終わると、女はすぐに身づくろいを始めた。
どうやらこの女は男みたいな性格らしい。
「じゃあ、私は自分の部屋に行くからね」
「ああ。わかった」
寝っ転がったまま、女に手を振る。

女が去ってから、十分くらいすると、再びドアをノックする音がした。
ドアを開くと、さっきとは違う女が立っている。
さっきの女と同じくらいの年まわりだ。
あてずっぽうに言ってみる。
「由梨坊」
「お久しぶりね。元気?」
「来るのは明日じゃなかったの?」
「うん。切符が取れたから早く来た。ケンジ君も来るって聞いてたし」
「美恵ちゃんはもう着いてるよ」
ここでオレは思い出した。さっきの女の名は美恵子だ。
「じゃあ、晩御飯でも一緒に食べよっか」
「まだ晩飯には早いよ」
「ワイン持って来たから、これでも飲む?来週はケンジ君の誕生日でしょ」
「よく覚えてたよな」
ここで、オレは由梨という女を部屋に入れた。

「ホテルの部屋のコップじゃあ味気ないから、グラスも持って来た」
相変わらず気が利くなあ。ワインの見立ても上手だったよな。
早速、2人で乾杯した。
酔いと共に口も回り、ひとしきり昔の話をする。そうは言っても、オレの方はほとんど憶えていないので、専ら聞き役だ。
オレたち3人は、高校から大学を通じ、同じ部活をやっていたようだ。
昔話が一段落したところで、由梨が立ち上がる。
「じゃあ、私が先にシャワーを浴びるからね」
え? さっきと同じ展開じゃん。
オレって、この女とも出来てんの?

由梨がシャワーから上がり、オレたちは男と女がすることをした。
美恵子と違い、由梨坊は情が深い。
ことが終わった後も、ずっとオレにくっついて、オレの腹を撫でている。
「見た目はあんまりイケてないけど、こうやって傍にくれば全然違うわね」
それってオレのこと?
「イケてない、は失礼だろ」
「でも、この肌の匂いと触りごこちにはかなわない。肌が合うって言うのかしら。ケンジ君が抱き枕だったら良いのにね。そしたら、いつも自分のベッドに置いておくのに」
「それも少し失礼じゃねえか?抱き枕かよ」
しかし、少し謎が解けた。
オレは何かフェロモンみたいなのを耳の後ろから出していて、それで女が寄って来るのだ。
女が数十センチのところまで近づいた日には、触りたくて・触られたくて堪らなくなるらしい。
男としては本望かもしれないが、程度にもよるよな。
これが日に2人3人と重なったら、さぞキツい話だろ。
「オレは晩飯には行かずに、ここで寝てる。美恵ちゃんと2人で食べな」
「わかった。また明日ね」
「うん」

由梨が去り、ようやくゆっくり休めそうな感じになってきた。
高校や大学の女子も、これからはもう来ないだろ。
オレはベッドに横になり、ひとつ伸びをした。

「コンコン」
ノックの音がした。
まさかね。今度は違うよな。
ドアを開くと、そこに立っていたのは、このホテルに来る時にオレを案内してくれた若いお母さんだ。
「今晩は」
「先ほどはどうも有難うございました」
お礼を言い、軽く会釈をする。一体、何の用だろな。

母親がごく自然な動作で部屋の中に入ってくる。
「娘は預けてきました。でも、あんまり時間が無いの」
え? それって、これから何かをするって意味だよな。
ついさっき初めて会ったばかりの女だろ。
どうしてこんな展開になるわけ?
この女が薄い色のワンピースを着ていたのですぐに分かったが、女は上下とも下着を着けていなかった。
おいおい。1歳にもならない娘の母親だろ。

この調子じゃあ、オレは知り合いの女性の総てに手を付けていそうだ。
もしかして、今回死んだ先輩の奥さんとか、さらにその「お母さん」までアリじゃね?
オレの頭の中に、自分が老婆を抱きかかえているイメージが拡がった。

節操がない、というよりも、それがオレの仕事であり義務であるような気もするな。
あるいは宿命と言うべきか。
おそらくオレは女たちに夢や快楽を与え続けているのだ。
もちろん、義務や仕事になると、楽しいことはひとつもない。
きっと難行苦行の毎日だろ。明らかに使い過ぎなわけだし。

女が手早く服を脱ぐ。
その女の肢体を見て、あそこが固くなると同時に、きりきりと痛みが走った。
さすがのオレも少しゲンナリする。

ここで覚醒。