月曜の夕食後、例によって居眠りをしました。
これはその時に観た短い夢です。
我に返ると、オレは道に立っていた。
「ここはどこ?オレは一体誰なんだろ」
右手に何かメモを持っていたので、それを開いて見る。
「ゴールデンパレスホテル」と書いてあった。
中級だなこりゃ。日本にはこういうネーミングは少ない。
しかし、もしここが東南アジアなら、かなりの高級ホテルだ。
乳母車を押した女性が通りかかる。
日本人だった。
(良かった。言葉が通じる。)
その女性を呼び止めて、メモを見せた。
「あの。ここに行くつもりなのですが、どうやって行けば良いでしょう」
清楚なお母さんが微笑む。
「これから私もそこに行きます。この近くですから、一緒に参りましょう」
若いのに、ずいぶん丁寧な言葉遣いだ。
ホテルは予想以上に立派な建物だった。
すぐにチェックインして、部屋に入る。
最初に姿見で自分を見た。
オレは30台後半。と言うよりアラ40だろ。
礼服のようなダークスーツを着ている。
風采の上がらない、痩せた中年男だ。
コンコン、とノックの音がする。
ドアを開くと、外に立っていたのは、オレと同じくらいの年恰好の女性だった。
「来ちゃった」
誰だろ、この女。
この女も黒いドレスだ。
「入っても良い?」
「ああ」
中に招き入れる。
「こういうことでも無ければ、独りで外泊は出来ないわね」
ま、年齢的に亭主持ち。かつ2人くらいの子持ちだろ。
礼服を着てるところを見ると、どうやら共通の知人に不幸があって、それでこの街に集まった、てな感じだ。
「由梨坊は?」
「明日。明日の朝に来て、式に出て、そのまま帰るか、ここに1泊という人が多いみたいだよ。タカシは?」
「連絡無し。何も聞いてないな」
それどころか、そいつが誰かも覚えていない。最初に口から勝手に名前が出た「由梨」という女の子のこともだ。
「先にシャワーを浴びるね」
女はさっさと上着を脱ぎ、下着姿になる。
年の割にはスタイルがきれい。子どもはいないのかも。
何気なくそのまま眺めていると、女は「あっち向いてて」とオレに言い付けた。
ありゃりゃ。この雰囲気は、もしかしてこれから「出来ちゃう」ってこと?
その辺は「誰でも来い」のオレだが、しかし今は相手が誰だかすらわからない。
ここに来て、「ところで、あんたは誰?」とはとても訊けないよな。
試しに何か言ってみよう。
「同窓会は出るの?」
テキトーな話だが、オレたちくらいの年齢なら、そろそろやってそう。
女が振り向く。
「まだ1年先のことじゃない。それに、女子校の同窓会なんて、大体はダンナ自慢で始まりダンナ自慢で終わるんだから、出るかどうかもわからない」
「そっか」
「ケンジ君の方は?」
「オレはもう同窓会みたいなのは出ない」
「還暦過ぎてからにするの?」
「もしその頃もオレが生きてるならね」
「卒業してから、もう20年経つのね」
良かった。これで分かったぞ。オレとこの女は、高校時代に付き合っていたわけだな。
近くに住んでいたが、高校は別。この女は女子校だ。
たぶん、最近、偶然再会して、こういう関係になったんだろ。
お互いに、不平不満の多い年頃だもの。
女がバスルームの扉を開く。
白い背中が眩しい。でも、この女の名前は何だっけな。
しばらくすると、女が出て来る。
それからすぐに、オレたちは男と女でするべきことをした。
ことが終わると、女はすぐに身づくろいを始めた。
どうやらこの女は男みたいな性格らしい。
「じゃあ、私は自分の部屋に行くからね」
「ああ。わかった」
寝っ転がったまま、女に手を振る。
女が去ってから、十分くらいすると、再びドアをノックする音がした。
ドアを開くと、さっきとは違う女が立っている。
さっきの女と同じくらいの年まわりだ。
あてずっぽうに言ってみる。
「由梨坊」
「お久しぶりね。元気?」
「来るのは明日じゃなかったの?」
「うん。切符が取れたから早く来た。ケンジ君も来るって聞いてたし」
「美恵ちゃんはもう着いてるよ」
ここでオレは思い出した。さっきの女の名は美恵子だ。
「じゃあ、晩御飯でも一緒に食べよっか」
「まだ晩飯には早いよ」
「ワイン持って来たから、これでも飲む?来週はケンジ君の誕生日でしょ」
「よく覚えてたよな」
ここで、オレは由梨という女を部屋に入れた。
「ホテルの部屋のコップじゃあ味気ないから、グラスも持って来た」
相変わらず気が利くなあ。ワインの見立ても上手だったよな。
早速、2人で乾杯した。
酔いと共に口も回り、ひとしきり昔の話をする。そうは言っても、オレの方はほとんど憶えていないので、専ら聞き役だ。
オレたち3人は、高校から大学を通じ、同じ部活をやっていたようだ。
昔話が一段落したところで、由梨が立ち上がる。
「じゃあ、私が先にシャワーを浴びるからね」
え? さっきと同じ展開じゃん。
オレって、この女とも出来てんの?
由梨がシャワーから上がり、オレたちは男と女がすることをした。
美恵子と違い、由梨坊は情が深い。
ことが終わった後も、ずっとオレにくっついて、オレの腹を撫でている。
「見た目はあんまりイケてないけど、こうやって傍にくれば全然違うわね」
それってオレのこと?
「イケてない、は失礼だろ」
「でも、この肌の匂いと触りごこちにはかなわない。肌が合うって言うのかしら。ケンジ君が抱き枕だったら良いのにね。そしたら、いつも自分のベッドに置いておくのに」
「それも少し失礼じゃねえか?抱き枕かよ」
しかし、少し謎が解けた。
オレは何かフェロモンみたいなのを耳の後ろから出していて、それで女が寄って来るのだ。
女が数十センチのところまで近づいた日には、触りたくて・触られたくて堪らなくなるらしい。
男としては本望かもしれないが、程度にもよるよな。
これが日に2人3人と重なったら、さぞキツい話だろ。
「オレは晩飯には行かずに、ここで寝てる。美恵ちゃんと2人で食べな」
「わかった。また明日ね」
「うん」
由梨が去り、ようやくゆっくり休めそうな感じになってきた。
高校や大学の女子も、これからはもう来ないだろ。
オレはベッドに横になり、ひとつ伸びをした。
「コンコン」
ノックの音がした。
まさかね。今度は違うよな。
ドアを開くと、そこに立っていたのは、このホテルに来る時にオレを案内してくれた若いお母さんだ。
「今晩は」
「先ほどはどうも有難うございました」
お礼を言い、軽く会釈をする。一体、何の用だろな。
母親がごく自然な動作で部屋の中に入ってくる。
「娘は預けてきました。でも、あんまり時間が無いの」
え? それって、これから何かをするって意味だよな。
ついさっき初めて会ったばかりの女だろ。
どうしてこんな展開になるわけ?
この女が薄い色のワンピースを着ていたのですぐに分かったが、女は上下とも下着を着けていなかった。
おいおい。1歳にもならない娘の母親だろ。
この調子じゃあ、オレは知り合いの女性の総てに手を付けていそうだ。
もしかして、今回死んだ先輩の奥さんとか、さらにその「お母さん」までアリじゃね?
オレの頭の中に、自分が老婆を抱きかかえているイメージが拡がった。
節操がない、というよりも、それがオレの仕事であり義務であるような気もするな。
あるいは宿命と言うべきか。
おそらくオレは女たちに夢や快楽を与え続けているのだ。
もちろん、義務や仕事になると、楽しいことはひとつもない。
きっと難行苦行の毎日だろ。明らかに使い過ぎなわけだし。
女が手早く服を脱ぐ。
その女の肢体を見て、あそこが固くなると同時に、きりきりと痛みが走った。
さすがのオレも少しゲンナリする。
ここで覚醒。