日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第337夜 速い男 (1)

水曜の朝方に観た夢です。
主な内容は、「動作が他人より十倍も速くなってしまった男」の物語でした。
どこかで聞いたような話なので、夢に影響を与えた小説の類があるかもしれません。

眼を開くと、麻雀台の前に座っている。
三方には、人相の良くない男たちが3人いた。
(麻雀をやっているのか。周りの雰囲気からして、レートの高い勝負だな。)
オレは大学の非常勤講師をやっている時に、麻雀で暮らしていたことがある。

カードゲームで「カウンティング」という必勝法があるが、使用したカードの絵柄や数値を記憶し、ディーラーのカードの残りを予測する手法だ。
オレはこれを応用して、山の残り牌を推定して、最短距離で上がりに到達する方法を考えた。
これが出来るのは、このオレが社会統計学スペシャリストだからで、オレはバラバラと数字が並んでいるのを一瞥しただけで、その数値の間の関連性を数式で表すことが出来るのだ。

数学は持って生まれたセンスが重要なので、オレは学校で数学に苦労したことは無い。
規則を覚えてしまえば簡単なので、教科書は1度読むだけで大丈夫だった。

オレの方法は残り山が半分を割った頃に機能する。
他の3人の手元を見ていれば、何を持っているかは推測できるが、基本は消去法なので、生きている牌が多いと対応出来ない。
このため、慣れるまでは、やっぱり勝ったり負けたりだった。

今は完全に習得したので、ほとんど負けなくなった。
博打にうつつを抜かす人間は基本的に愚かなので、勝てば「これがオレの実力」で、負けると「ツキが無かった」と考える。
これは逆で、どれだけ勝てるかは「運次第」で、負けないのは「技術」だ。
オレが自分の技術を完成したのは、このカウンティングを「負けないため」に使うことにしたことで、要するに、上がるためではなく、相手の上がりを阻止するために使うようにしたことだ。
こうすると、マイナスで終わる時がほとんど無くなり、チャラ以上の結果となる。

最初はごく普通のリーチ麻雀荘で打っていたが、これだとピンの1-2か、1-3で馬が数本だけなので、ひと晩に半荘4回しか打たないオレでは3万から5万のアガリにしかならない。
このレートではそこら辺が限界だし、それ以上取ってばかりでは、他の客に嫌われる。
このため、オレはやはりいつの間にか、レートの高い個室麻雀に出入りするようになった。
千点1万円から先なら、ひと晩に何十万かにはなるし、そうすれば、麻雀を打つ日数を減らすことが出来る。
オレは単純にゼニのために博打を打っているのであって、本業は研究の方だ。

金銭的には不満は無いが、問題もある。
退屈することだ。
オレは数学的に思考するので、結論が早い。
ところが、レートが高くなると、頭は弱いが「押し引き」の強いオヤジが相手になる。
物事を効率よく運ばないし、遠回りする人種なので、そういう意味ではやっかいだ。
待ち時間もやたら長い。
レートが高いので、先切りや先積もは一切行われない。
もし前のヤツが切る前に、一瞬早く牌に触れてしまうと、もはやその局は上がり放棄だ。
だから、前のヤツが切るまで、じっと待っているわけだが、この時間が果てしなく長く感じる。

「この調子で時間を使っていたら、あっという間に人生が終わってしまうぞ」
そんなことまで考えてしまう。

今夜のメンバーも遅いヤツだった。
1人はヤクザ者でこれが仕事同然だから動作が早い。
だが、他の2人はいずれも2代目経営者で、金払いは良いが世慣れていないヤツだった。
しかも、オレの前2人がそうだ。
オレには、こいつらが何を考えて固まっているかが分からない。

オレの上家がとりわけ酷くて、牌を空中に持ち上げ、そこで考えている。
そのまま、十秒、二十秒と時間が過ぎる。
「切ってから考えりゃ良いのにな」
そう思うが、もちろん、口には出さない。
この人たちが、オレにお金を運ぶ大切なお客さんだからだ。

だが、この夜の上家は本当に酷かった。
右手を空中に止めたままでいる。
このまま時間が止まってしまうんじゃないかと思うくらいの長さだ。
さすがに、気の長いオレでも、つい皮肉を口にしてしまった。
「どうしたの。上堂さん。氷河期が来ちまったの?」
声を掛けても、このオヤジはじっとしたままだった。

「仕方ない。ねえちょっと!」
離れた場所にいたメンバーを呼ぶ。
「オレにビール下さい」
聞こえたんだか、聞こえていないんだか。
メンバーの兄ちゃんはじっとしたままだ。

(続く)