日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第352夜 タイムマシン

眠れるのは、概ね90分程度になっています。 
疲労が取れず、夕食の支度の後に居間の床で寝入ってしまいました。
その時の夢です。

ようやく、まともなタイムマシンが完成した。
これまで失敗すること85回で、延べ300人が戻って来られなかった。
最も大きかったのは座標軸の設定だ。
時間自体は、極端に移動速度を上げれば逆行させられる。
ところが、宇宙は常に拡大しているので、時間を遡った時に、空間座標の同じ位置に戻る必要がある。
宇宙規模の距離なので、ぴったり合わせるのは難しい。

最初のうちは、時間自体は逆行できても、「行ったきり」になった。
宇宙空間のどこか知らないところに行ってしまうわけだ。
この調整のために研究者たちは20年を費やした。
まあ、静止した状態では時間の逆行は出来ず、必ず移動するわけだから、きちんとそれを踏まえた宇宙座標軸を設定できれば何とかなる。
誤差を10億分の1くらいに抑えられれば、移動調整が可能だろう。

初めて白亜紀の地球の上空を通った時はドキドキした。
成層圏の外だが、高性能なカメラがあるので、地表の様子が詳細に分かる。
直径が10メートルを超える木々の森に、体長が20メートルの恐竜がぞろぞろいた。

5度の成功の後、次は地表に下りることになった。
5回とは慎重だが、バタフライ効果が起きるかどうかを確かめるためだった。
実際に、上空から小さなものを落として見たり、最後はミサイルで山を破壊してみたが、影響は無かった。
時間は大きな川の流れのように動いているから、ひとつや2つの石を投じたところで、流れ全体を変えることは無いのだ。外部から受けた些細な力など、流れが吸収して消化してしまう。
ミサイルで地球全体を破壊すれば別だろうが、トリケラトプスを1匹2匹捕まえたところで、何の変化も起こらない。

いよいよ5時間後に着陸することになった時には、さすがに興奮した。
推定でしかなかった「過去の歴史」を、実際に目で確認するのは、歴史上、俺たちが初めてだ。
まあ、ちょっと降りて、小一時間ほど観るだけなのだが。
あまりに興奮したので、その猛りを鎮めるために、俺はパートナーの女性隊員とセックスをした。
相手は俺よりも、結構、年上の隊員だったが、こういう時はどうでも良い。
1度では足りず、3度発射してようやく落ち着いた。
白亜紀」への着陸は、それくらい刺激的な行為だったのだ。

着陸艇は、地面に下りる時に2度大きくバウンドした。
だいぶ傾いたが、機械に故障は無い。
大気の状態を確かめると、やや酸素濃度が高かったが、さしたる影響は無かった。
ハッチを開き外に出た。

驚いて声も出ない。
一番驚いたのは重力だ。
重力が俺たちが出発した時代の十分の一も無い。
「なるほど。低重力は真実だったか」
俺たちの時代では、一番体の大きな陸上生物は象だが、その象は自らの体重のせいで、敏捷には動けない。
ところが恐竜のサイズは、その象の十倍を超えるものもざらにいる。
どうやって動けたのかが謎の1つだったわけで、諸説様々言われていたが、その1つが低重力説だ。
スーパーサウルスが、まともに動けるわけがない。
心臓を動かすだけで、ひと苦労だからな。

重力が0.1でも、ここで生まれ育った生物にとっては、それが当たり前なので恩恵は無い。
だが、俺たちは違う。
ちょっと力を入れると、何十メートルも宙に浮いてしまう。
そりゃそうだ。瞬発力が十倍になったのと同じ意味だ。

「ひとまずティラノサウルスを探そう」
小型車両も準備してきたが、まったく必要が無かった。
ちょっとジャンプすれば、1歩当たり十数メートルも移動できたからだ。

しかし、俺たちが期待するティラノサウルスはどこを見て回っても見つからなかった。
しかもトリケラトプスも、ブシッタコサウルスもだ。
大型恐竜の姿はまったく無く、爬虫類や哺乳類の先祖らしき小型生物がたまに顔を出す程度だった。
「こりゃ、一体どういうことだろ」
俺は相棒と2人で首を捻った。
「恐竜などどこにもいないじゃないか」

仕方なく、探査用車両に乗って遠出してみた。
何十キロも移動して、山を幾つか越えると、遠くに宇宙船が止まっているのが見えた。
宇宙船と言うより、タイムマシンと言う方が正しい。
あの円板型の形状は、目標地点に向け、正確な空間移動するために、俺たちの時代の研究者が発明したものだ。
近くによると、人間が作業用機械を駆使して、大きな穴を掘っていた。

「こんにちは」
俺たちは、一応は用心しながら近づいた。
男がこっちを振り返る。
「おお。あんたらは第一次調査隊の人たちだな。服装で分かる」
「そうです。着陸するのはこれが初めてです」
「こちらは、第16期で、今は整合化作業をやってるところだ」
「整合化作業?」
「まだ知らないのか。じゃあ、こっちに来て」
男は俺たちを先導し、穴の方に歩いて行く。

穴の淵で、男が底を指差した。
「ほら」
指の先を追うと、巨大な恐竜の骨が今まさに埋められるところだった。
「あ。あれは」
「そう。ディプロドクスの骨。これを作るのは大変だったよ」
「作り物なのですか。なぜ埋めてるんですか」
「だって、こういうのが存在しないことが世間に知れたら不味いだろ。それに寂しいじゃないか」

男が少し悔しそうな表情になる。
「神が居ないことが分かって、恐竜もいない。生物の大半が昆虫で、百万年経っても変わり映えのしない有り様なら、本当につまらない。実は何も無かったことが分かったのは、第6期調査隊の時だが、それ以降はカルシウムでつくった恐竜の骨を埋めてるんだよ。たまに気まぐれで、巨人族とか長頭人とかも埋めたりするね」

ここで覚醒。