日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第354夜 悪霊通り

月曜の夜に仮眠を取ったところ、やはり悪夢続き。
これはつい先ほど観ていた夢です。

所用でどこか古い街を訪れた。
要件が終わり、ホテルに行こうとタクシーを止めた。
「凸凹ホテルへ」と言おうとした瞬間に、気が変わった。
「どこか面白いところないですか?」
「飲むの?それともこっち?」
運転手が小指を立てる。
さすが、ここは海の近く。
海の男が立ち寄る港町だったので、ストレートだ。
ま、男たちは4カ月とか半年も洋上にいた者が大半だったのだろうから、陸に上れば、道行く女性がぜんぶ「とてつもなくきれいに」映る。
突然襲い掛かってしまいそうになるくらいの勢いだろ。
もし海の男たちが女を襲ったら大変なので、一般人に危害が及ばないように、色町が今も堂々と営業している。
伝統文化なので、誰でも知っているが、口には出さない。
公で話題にすれば、問題にせざるを得ないからだ。

「飲んで、色町通りを冷かして歩くだけってのは大丈夫なの?」
運転手が笑う。
「別に何がしかお金を落とす分には文句は言われないですよ」
「オレは心臓病なので、女遊びは出来ないけど、外から建物を眺める分には構わんでしょ?」
ちょっと蟹でも食って、通りの端から端まで歩けば、若かった頃に戻った気分になる。

まずはそのタクシーで料亭に向かう。
しかし、オレはその1ブロック手前で降りることにした。
歩道の石畳がきれいだったからだ。
雪を解かすために、地下水を流しているが、これがなかなか風情がある。

「ここは確か道路が縦横に走っていて、簡単だったよな」
きっと道に迷うことは無いだろ。
ゆっくりと歩きだす。
空襲の被害が無かったので、古い街並みも残っている。
気持ちが落ち着いた。

「さて、その店はどこだろ」
まず料亭で蟹をつまみに一杯飲み、そこから街の中心にあるホテルまで戻るのだが、その途中に色町があると聞いている。
まずは、料亭の方にいかねば。
たった1ブロックだから、すぐ近くだろ。

ところが、幾ら歩いても、その通りには行き当たらない。
それどころか、知らないお寺や大きな墓地を回ることになってしまった。
「もう30分も歩いている。2キロは歩いた勘定だ。いったいどうなってるの」
回りがどんどん暗くなって行く。

同じところを2度回った後、それらしき通りに巡り会った。
木造りの店が並ぶ昔のままの通りだ。
京都とか、飛騨高山とか、川越だな。
しかし、車が通れる道幅ではなく、左右の店の軒先の間はほんの5、6メートルだった。
すっかり昔のままなんだな。
古い旅館とか、土産物屋が並んでいる。

「ここを真ん中らへんまで行けば、その店がありそうだ」
もはや店じまいの刻限なので、店の子たちが前を片づけ初めていた。
皆着物姿で、丸髷を結っている。
「ずいぶん凝ってるなあ。昔をそのままコピーしているのか」
通りすがりに、乾物屋の奥を覗いて見ると、店主が立っているのが見えた。
やはり着物姿で、なにやら店の者を叱っていた。
すごい。徹底している。
大正の末頃の雰囲気を完全に模しているのだ。
商店街が一致団結して、街づくりに協力しているということだ。

数分歩いているうちに、がたぴしと音を立て、一斉に店の雨戸が閉められた。
これがまた見事に一致していて、ほんの20秒で通りが真っ暗になった。
「おいおい。街灯が少ししかないから、店の灯りがないと歩くのにも困ってしまう」
街灯は30辰烹泳椶困弔靴立っていなかった。
「ずっと先まで真っ暗だな。この先に料亭なんかありそうにないぞ」
後ろを振り返る。
来た道の方がもっと真っ暗だった。
「仕方ない。前に進むか」
とぼとぼと歩き出す。

三本目の街灯を通り過ぎる。
先はまたもや真っ暗。
「ふう」
ため息を吐いた、その瞬間に、すぐ目の前に人が現れた。
「わっ。びっくりした」
驚くのも当然で、その人物は、軍服を着た男だった。
しかも、太平洋戦争ではなく、日清戦争の時の陸軍の軍服だ。
左腕が無く、その位置には晒し木綿の布で括った箱を抱えていた。
傷痍軍人だった。
戦場で得た傷が元で働けなくなったので、寄付を求めて道に立っているのだ。
オレは財布を取り出し、その箱に千円札を1枚を入れた。
軍服を着た男は丁寧な仕草で頭を下げた。

その場を離れ、先に進む。
またもや暗がりだ。
遠くの方に、いくらか街の灯りが見えている。
「先の方には別の通りがあるのだな」
もう、料亭も色町もどうでもよくなっており、早く明るいホテルに帰りたい気分になっていた。
躓かないように、足を引きずるように歩いた。

すると、自分の後ろにも足を引きずって歩く音が聞こえる。
オレが歩く、ずりずりという音の後ろで、やっぱり「ずりずり」だ。
おいおい。誰かオレの後ろをついて来てるのか。
頃合いを見計らって、パッと後ろを振り向く。
誰もいなかった。
また前を向いて歩き出す。
オレは今度は足音を高く立てて、「パンパン」と鳴らした。
すると、後ろの方では前と同じに、「ずりずり」と足を引きずる音がする。
もう一度振り返るが、やはり誰もいなかった。

「おかしいな。誰もいない」
前に向き直って、歩き出そうというそぶりを見せると同時に、今度はそのまま振り返った。
フェイクを掛けたのだ。
すると、オレのすぐ後ろに女が立っていた。
髪が前に垂れ、顔の表情は見えないが、ずっとオレの後ろを歩いていたのだ。
うへえ。気持ち悪いぞ。
しかも、赤い襦袢1枚の姿だった。
今どき、夜中に襦袢1枚で外を歩いているヤツなど滅多にいない。
しかも、今は真冬だ。

こりゃ、まずい。
とてつもなく「良からぬ事態」に陥りつつあるようだ。
オレはじりじりと後ずさりした。
しかし、あろうことか、オレが下がると、女の方も1歩ずつ前に出て来る。
なんだよ。オレにつきまとっているわけか。
「おい。オレは大人しそうな見た目と違って、女出入りはかなり多い。どこかでお前の恨みを買うようなことでもしたのか」
思い当るふしなら、いくらでもある。
とりあえず訊いてみたが、女はじっと黙っている。
それもそうだ。
こんな格好だもの。生きている女であるわけがない。

こいつが死霊悪霊の類だったなら、やることは1つだな。
「逃げるしかない」
オレはいきなり、女に背中を向けて走り出した。
もちろん、全速力だ。
この数十年、全力で走ったことなどなかったが、こういう時は別だ。

百辰2百辰曚描?蝓後ろの気配を感じなくなったところで、立ち止まる。
振り向いて後ろを見た。
すると、女は30辰曚標紊蹐卜っていた。
この場合、「立っていた」という表現はあまり正確じゃない。
「むくむくと姿を変えていた」という言い方が正しい。
女の体からは沢山の足が飛び出て、蜘蛛のようなサソリのような形に変わりつつあった。
「おいおい。あれは・・・」
地獄にいるヤツじゃないか。

元は亡者の魂だったが、何百年と地獄の底にいたために、人として生きていた頃のことを忘れ、悪心だけが凝り固まったものだ。おそらく数千人分の魂のかけらが集まっているのだろう。
体は蜘蛛で、頭だけは女のままだった。
「ああいうのに齧られたくはないぞ」
ここで前に向き直り、さっきよりも一段と速い速度で逃げ出した。
とりあえず、人が沢山いそうな所に出よう。

必死で逃げるが、後ろからさわさわと足音が近づいて来る。
そりゃそうだ。
足が8本だか10本だかあるわけだし、速いよな。
必死で走るが、女の化け物はすぐにオレの後ろに迫って来た。
頭のすぐ後ろで、「はあはあ」という息遣いまで聞こえる。

「ちきしょう!捕まるかよ」
さらに速力を高め、先に進む。
後頭部に化け物の指が掛かりそうになる。
「バカヤロー」
いよいよ捕まるかというぎりぎりの瞬間に、オレは明るい通りに出た。
街灯が並び、前の道を車が行き来している。
商店街はまだ営業していた。
恐る恐る後ろを振り返ると、あの女の化け物の姿はもはや消えていた。

「危なかった」
まさか、地獄の化け物がこの世に迷い出ていたとは。
地獄の蓋が開いたのだろうか。
もし、蓋が開いたとすれば、こんなもんじゃあ済まないだろうな。
「ま、とりあえずはホテルに帰って休もう」
そう思った瞬間、オレの前にタクシーが止まった。
窓がするすると開く。
「あれ。さっきのお客さんだよね。蟹を食べに行かなかったの?」
「道に迷っちゃってさ。酷い目に遭った」
化け物女に会って、という話はさすがに出来ない。
幽霊やUFOと同じで、実際に見たことの無い者は信じないし、変人扱いされる。
「凸凹ホテルに行ってくれる?」
「はい。よろしいですよ」
ドアが開く。

オレが座席に乗り込むと、運転手が話し掛けてきた。
「ずいぶん疲れた感じですね。こんなところで何をしてたんです?」
「いや。あんたが教えてくれた料亭に行こうと思ったら、道に迷ってね。わけのわからない通りに出ちまった」
「え?この裏の方には何も無いですよ。区画整理で、通り全体を取り壊しているところですから」
「お寺の外を回ったら、昔風の街並みがあったけど」
運転手が首をひねる。
「△※寺ですか?あの回りは火事で焼けちゃったから、今は野っ原ですよ」
「そんな馬鹿な」
さっきのは一体何だったの?

「ま、この辺は土地が古いからね。昔からの自殺の名所も近いし」
運転手が後ろを振り返る。
「思いも付かないことが起きるんですよ」
オレの顔を見る運転手は、今度は制帽を被っていた。
なんだか日清戦争の陸軍の軍帽に似ている。
視線を下に向けると、その運転手には左腕が無かった。

ここで覚醒。

「後ろに女が立っている気がする」のは、このところ頻繁にあります。
昨夕は、こちらが気づかぬうちに、次女が近くで父親を見ていたのですが、これに驚き、思わず「びっくりさせるな」と叱ってしまいました。
次女に罪は無く、こちらが過敏になっているのです。

丁寧に直すと、ソコソコの幻想小説になりそうなので、やってみることにします。