日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第357夜 監獄ナックル

土曜の朝に観た夢です。

この試合も7回の表に入った。
相手投手は、元大リ-がーの江原隆だ。
江原は大リーグで2年間投げたほどのプロ中のプロだ。
日本に戻ってもまだ数年は活躍できたはずだが、不動産投資に失敗したため、野球賭博に加わった。
八百長で告発され、球界を追放になったが、すぐに投資詐欺に名を連ね逮捕されたのだ。
江原は有罪となり、3年ほど服役することになった。

俺の方は大学野球出身だ。名前は杉山大輔と言う。
プロ入りが決まっていたのに、交通事故に遭い、利き腕の中指を骨折してしまった。
これでプロ入りはおじゃんになった。
荒れた俺は酒の席で挑発され、ついカッとなって喧嘩をしてしまった。
殴られたので、思い切り殴り返したが、相手は打ち所が悪くて、死んでしまった。
傷害致死になるところだが、相手がヤクザ者だったので、重過失に留まった。
俺が先に殴られたのを見ていた人がいたおかげだ。
俺の刑期は2年半だ。残りはあと半年。

同じ刑務所に、大リーガーとプロ野球選手に近い者が居る。
こうなると、誰でも試合を見てみたくなる。
刑務所長も野球好きで、当然そう考えた。
そこで、江原のいる北房と、俺のいる南房とで試合をすることになったのだ。
勝った方を出所させてくれれば必死に戦うが、さすがにそれはない。
まあ、この試合に勝てば、その房には全員に夕食でケーキが配られる。
ケーキは年に数度しか配膳されないから、試合に出る者も、応援する者も真剣だ。

江原は基本はナックルボーラーなのだが、これくらいの投手になると、直球だって時速140キロ近く出る。
さすがに、素人では打てない。
俺の房には、高校野球の経験がある者が何人かいたが、やはり全く打てずに三振の山を築いている。
俺が感動するのは、そのことではない。
プロのナックルボールを捕球できるキャッチャーが所内にいたことだ。
そいつも実業団出身でプロ志向があったが、結局挫折したのだった。
スポーツ馬鹿がその道で成功できないと、末路はあわれだ。大概は何かでしくじって、こういう場所に来てしまう。

元々、俺の武器はカーブだった。
直球が140キロ台前半でカーブが130キロ弱。
怪我をした後は、直球は135キロしか出ないが、スローカーブが独特の変化をする。
中指が曲がったままだからだな。
しかし、ま、130キロ台でも、ぐいっと曲がるカーブを交えれば、高校野球程度のヤツでは打ち返してこない。、
俺の方も6回の裏まで、ノーヒットだ。
こっちのキャッチャーは、レスラーの斉藤正雄だ。このままででは分からないだろうが、「マサ道三」と言えば知っている人も多い。美濃出身の斉藤なので、斎藤道三からリングネームを取ったのだ。
この男はトンパチなレスラーで、刑務所に入ることになったいきさつも変わっている。
斉藤が酔っぱらった状態で酒場に入ったら、仲間のレスラーが騒動を起こしていた。斉藤はそいつを助けるべく、すぐさま相手をなぎ倒した。ところが、その相手は皆警官で、酒乱のレスラー仲間を取り押さえに来ていたのだ。
斉藤は十三人ほどなぎ倒し、半数を病院送りにした。
これで刑期は1年だ。
俺のカーブを誰も捕球できないので困っていたら、この男が手を上げた。
斉藤は大の甘党で、条件は「ケーキを4つくれ」というものだった。
もちろん、キャッチャーなどやったことがないのだが、なあに、レスラーだし、ボールを体で止めても痛みを感じない。
鐘馗さまみたいな頑丈な肉体を持っているのだ。

7回、8回は無得点。おまけに、やはり双方ともノーヒットだ。
あと1回で完全試合になる。
「だろ?オレでもそれくらいは知っている」と斉藤が言った。
「でも、完全試合にするためには、こっちが点を入れて勝たなきゃならないんだよ」
それが難しい。
江原も俺も完全にスイッチが入ってしまい、本気モードで戦っている。

9回も無得点だ。
延長戦に入り、10回、11回とノーヒットが続く。
ここまで喜んで観ていた所長も、さすがに今の事態が飲みこめて来たようだ。
このままでは、どっちかが疲れ果てるまで、延々と試合が続く。
11回が終わったところで、所長は立ち上がり、審判を呼んだ。
「おい。13回までで、もし点が入らなかったら引き分けにしよう。もう暗くなるからな」

この声が周りに聞こえると、大ブーイングが湧き上がった。
「おいおい。ケーキはどうなるんだよ」
「勝ち負けが付くまではやらせろよな」
大合唱になった。
そこで所長は、12回の表からは3塁にランナーを置いた状態で始めることに命じた。
ソフトボールの試合でよくあるヤツだな。
おまけにサッカー式にサドンデス方式だ。こりゃ今は何て言ったかな。
とにかく、点が入った時点で、そこで終了だ。

次の打者は江原だ。
この男はナショナルリーグに所属していたので、打席にも立っていた。
大リーグの打席に立っていれば、俺くらいの投手の球なら見極めることが出来る。
俺は直球を投げたが、ヤツはそれを撃ち返した。
平凡な三塁ゴロだったが、三塁手がホームに投げた球が逸れ、1点が入った。
試合はここで終了。俺たちの負けだった。

試合が終わると、江原がオレに近寄って来た。
「おい。お前のナックルカーブは凄いな。どう握っているんだ?」
俺は自分の右手を見せた。
「俺は怪我をして、中指の関節が曲がったままなんです。カーブが微妙な動きをします」
人差し指と中指の間が、普通の人より広がっている。
「これなら早い直球は投げれんな。でも」
俺は顔を上げて、江原を見た。
「ナックルなら楽勝だ。カーブとナックルを主武器にすればかなり行けそうだ」

その次の週から、俺は江原と一緒に練習をするようになった。
天気の良い日には、外で過ごす時間が与えられるのだが、それを利用してトレーニングをするのだ。
さすがはプロ中のプロだ。
江原の教えで、俺はナックルが投げられるようになった。

俺の出所が近づいた時、江原が俺に言った。
「おい杉山。お前のナックルはかなり行ける。ここを出たら、俺の知り合いを訪ねてみろ」
江原は俺に小さなメモを渡した。
「俺はもう球界には戻れないから、お前がプロで活躍するのをテレビで見ることにするよ」
江原は本気で、俺がプロ野球で勝負になると思っているのだ。
俺にとって、これは心底から心強い話だった。

俺はその次の週に出所した。
出所した後、最初に訪れたのは、江原に教えられた球界の人間ではなく、ある女のところだった。
俺は逮捕される前に、その女と付き合っていたが、俺が服役することになったので、二人の関係は自然消滅したのだ。
もちろん、大手を振って訪問するわけには行かない。
俺と付き合っていたことで、その女も肩身の狭い思いをしたことだろう。
ひとまず、その女の実家に行ってみた。結婚するつもりだったので、何度か訪れたことがある。
離れたところから玄関を見ていると、美菜子がたまたま外に出て来た。
美菜子はその女の名前だ。

玄関から出て来た美菜子は小さい赤ん坊を抱いていた。
その後ろからは、背の高い男が付き従っている。
「あれから、すぐに結婚したのだな」
ま、そんなもんだ。ムショに入っている男を待っていても先は無い。
俺はため息をひとつ吐いて、その場を離れた。

それから1年近く月日が経った。
俺は試合に出ることになった。
今度は刑務所の試合じゃなく、本物のプロ野球だ。
あの後、俺はプロのスカウトに会ったのだが、すぐに何度か試験を受け、プロ球団に採用されたのだ。
日本ではナックルボーラーは滅多にいない。
そこが気に入られたのだろう。

試合開始直前に、控室に戻ったら、同じチームの選手たちがテレビを見ていた。
プロレスの試合だった。
「誰の試合をやってるんですか」
「アポロ猪山とマサ道三だよ。東京ドームが一杯になってる」
あの斉藤さんも復帰していたのだ。
しかも、東京ドームだ。
「俺達の試合よりも、観客が沢山入ってら。何万人だろ」
「ハハハ。スゲーな」

もうじき試合が始まる。
これは俺のプロ最初の試合だった。
観客席には、きっと江原さんも座っていることだろう。
それと、もっと大切なことに、美菜子と子どもも座っている筈だ。
美菜子は誰かと結婚していたのではなく、俺の子を産んでいたのだ。
実家から出て来たのは、美菜子の弟だった。
俺はそれを知り、この試合の切符を美菜子に送ったのだった。

野球場に俺のテーマ曲が流れ始めた。
曲はもちろん、「監獄ロック」だ。
江原さんや斉藤さん、刑務所の皆の思いを込めて、最初のボールだけは直球だぜ。
さあ、行くぞ。

ここで覚醒。

定型パターンの筋ですが、きちんと書けば読めそうな感じです。
他の人の作品をチェックして、被っていなければ、書いてみる価値はありそうです。
ま、似た感じの話がありそうですが。
マサ道三がポイントでしょうか。