日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎一滴の雫

◎一滴の雫
 郷里に滞在していたときのことです。
 入院中の母に、沢山の方からお見舞いを頂きましたので、主だった方に挨拶をしに行きました。
 3軒目が叔母のところ。
 叔母は理髪店を営んでいるのですが、椅子の向かい側に絵が飾ってありました。
 見覚えのあるタッチです。
 母の描いた絵ですね。

 「この絵を描いた人には覚えがあります」
 そう伝えると、叔母はニッコリ笑いました。
 やはり母の絵でしたか。
 母はボケ防止のために、絵を描き始めたのですが、誰かに求められるとすぐに差し上げてしまいます。
 「お袋が絵を描き始めた時は、ヘタクソでとても見られない絵でした。だが、お袋は毎日毎日描き続けています。今は線が良くなっていて、時々ハッとすることがあります」
 すると叔母は「本当にそうだよねえ.今は良い絵があるもの」と頷きました。

 母は誰に師事しているわけでもなく、総て自己流です。このため、今でももちろん素人絵なのですが、次第に無視出来なくなって来ているのです。
 ポトンポトンと落ちる小さい雫でも、毎日ずっと落ち続けていると、いつか岩を貫いてしまう。
 その凄みを感じました。
 おそらく、母は人に観られることを意識せずに、観たとおり、見えたとおりに描いています。受け手に対する配慮が無いのですが、そのために逆にストレートに打ち込むものがあるのだろうと思います。

 母の作品は、出来が良いものから、誰かの許に去ってしまいます。
 1枚は取り置きたいと思いますので、何とか元気を回復して欲しいものです。

 岩に落ちる一滴の雫を、皆は笑う。
 「そんなので何が変わるものか」
 ところが、気が付いた時には穴が開いています。
 そのことを、きちっと心に留めるべきだと痛感しました。