日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎夢の話 第678夜 倉庫で

◎夢の話 第678夜 倉庫で
 16日午前3時に観た夢です。
 夢の中の「俺」はどこか現実に似ているが、もちろん、別人格。

 瞼を開くと、俺はどこか倉庫の中に座っていた。
 俺は骨董品や古民具を山ほど持っているから、そんなのを仕舞いこんだ倉庫のひとつらしい。ま、骨董品と言っても、大半ががらくただ。いわゆる生活骨董というヤツになる。
 桐箪笥だの、鉄瓶だの、庶民が暮らしの中で実際に使っていた調度類のこと。
 大した値はつかない。

 近年、病気がちで十分に働けなくなったから、今は四十年買い溜めた古物を売って凌いでいる。現金で持っていれば、とっくの昔に贅沢に消えただろうが、骨董類は売却するのに手間隙がかかるから、なかなか出て行かない。良かったのか悪かったのかは分からないが、そうやって残っていてくれたお陰で、端から少しずつ売るだけで生活できる。
 あるものを売っているだけだから時間が出来る。そこで俺はその時間を使って、焼き物をしたり、鋳物を作ったりするようになった。
 こっちはすぐに上達して、皆に名前を覚えてもらうようになった。
「人生、何が不幸で何が幸いするかは分からない」 
 万事、「塞翁が馬」ってことだ。

 部屋の中央に座っていたら、眠り込んでいたらしい。
 ふと目を醒ましたら、既に真夜中だった。
 ここは倉庫街で、夜中には人がいなくなる。「ジーン」という静寂の音まで聞こえる。
 「静寂の音」とは、まったく音がしない時に、耳に聞こえてくる生体反応(たぶん)のことだ。
 すると、その静寂を破って、本物の物音が響いた。
 「ガタガタ」「ガタガタ」
 俺の見守る前で倉庫の窓枠が外され、男が侵入して来た。
 泥棒ということだ。
 俺はまだ明るいうちに眠り込んだので、電気をつけていない。
 男は暗がりの中を手探りで進み、俺の近くまで来たが、まだ俺には気付いていなかった。
 
 「躓いて転ぶと怪我をする。灯りをつけるといいよ」
 俺が声を掛けると、男はぴょんと飛び上がった。
 「ああ、驚いた。人がいたのか」
 「電気、電気。ほれ、すぐ後ろの壁にスイッチがある」
 5秒後に灯りが点く。
 男はやっぱり泥棒で、手には竹刀を持っている。
 一応、念のために持って来たんだな。

 「お前。泥棒なの?ついてないね。ここには大した物はない」
 そう言って男の顔を見る。男はどこかで見た顔だった。
 「入るところを間違えてるんだよ。こんな古ぼけた倉庫街じゃあ、ろくなものは無い。多少あっても売り難い物ばかりだ。ほれ、ここにある物だって、売りに行けばすぐに足がついてしまう。しかも俺は現金をほとんど持っていないし、カードも使わない」
 ここで俺は気がついた。
 (コイツ。※けし軍団の誰かじゃないか。)
 「お前は俺と同じ位の齢じゃないか。それがこんな風に泥棒に入るとは、あのニュースは本当のことだったんだな」
 少し前に芸能プロの騒動が表沙汰になったが、要するに金銭面の不満が積み重なったものだ。あんなの、親分が十億も税金を払っているのだから節税をすれば2億3億の金はすぐに出来る。その分を芸人に渡せば良いだけの話なのに。
 男は竹刀を下げ、しょんぼりしている。

 「それと、盗みに入るなら資産家の留守を狙え。不動産関係なら自宅に現金が置いてある。流通なら日曜の夜だ。回収されずに売り上げが残っていることがある。勤め人はどんなに大会社でも金融資産はたかが知れている。簡単に行けそうなところ、いかにもありそうなところに金は無い」
 顎で椅子を示すと、男が素直にそれに座る。
 本質的に悪いヤツではないんだろう。悪人なら竹刀ではなく木刀を持つ。臆病なら刃物を持つ。刃物を持つと、つい使ってしまうから、刃傷沙汰になる。そうなると、罪が一等重くなるから、初めから持たないのが賢明なやり方だ。
「要は、腹を括れってこと」
 男はしょんぼりと項垂れて、俺の話を聞いている。

 「でも、自分が芸人だという意識があるなら、どんなに腹が減ってもそっちを続けるべきだ。大道芸人で暮らしている者もいる。人に芸を見せることを喜びにしているわけだ。回りの恵まれた者の姿を見て、自分の現状の仕事を引き比べ『俺にはこんな仕事は出来ない』とか思わずに、とにかく人の前に出るべきじゃないのか」
 ここで俺は箪笥の引き出しを開けて、中から金貨を取り出した。
 「ここにある品のうちで、これが唯一、足がつかない性質の品だ。他は誰が売ったかすぐに分かってしまう。これを換金して、まずは飯でも食え。そうすれば、ものを考える余裕が出るから」
 こいつがツイていたのは、芸人だったということだ。
 そうでなければ、俺は箪笥に入っている日本刀のほうを取り出して、コイツを刺し殺していた。

 「お前は本当は運を持っているんだよ。俺は人生で幾度も盗難に遭っているから、泥棒や詐欺師には容赦ない。いつも振り込め詐欺が来てくれないかと心待ちにしている。心置きなく両腕を切り落とせるもの」
 そう話しているうちに、少し心が動いた。
 「やっぱりやっちまおうか」
 ヤバイ。もう少しでスイッチが入りそうだ。
 早くコイツを返さないと、俺が人殺しになってしまう。
 ここで覚醒。

 明後日には郷里に行き、倉庫の整理を始める予定なので、それが捻じ曲がって夢に出たようです。こと夢らしい夢です。
 死霊悪霊が出ないと、どんな夢でも気が楽です。