日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎夢の話 第706夜 あれを食べさせて

◎夢の話 第706夜 あれを食べさせて
 28日の朝7時半に観た夢です。

 車を屋敷の前に停めて、表門を潜る。
 家の中に入ると、十数人の人が集まっていた。
 古い屋敷で、築百年は経っていそう。
 天井が高く、柱や壁が黒く光っている。
 母親の実家に似ているが、しかし、それよりも大きい。
 母屋には十幾つ。別棟にも同じくらいの部屋があったと思う。
 「俺は前にもここに来たことがあるな」
 でも、確かそれは俺の夢の中の話だ。
 となると、今は夢の中にいるのかも知れん。 

 ここで中年の男に声を掛けられる。
 「おお。随分久し振りだね」
 男の隣には、奥さんらしき女と、娘のような若い子が二人いる。
 (この人。いったい誰だっけな。)
 思い出せない。
 最近は人の名前がすぐには思い出せなくなっていた。
 (でも、ま、調子を合わせとかないとな。)
 「あ、どうも。最近は如何ですか」
 男が頷く。
 「今は大丈夫だね。痛みを感じなくなって来た」
 ここで少し記憶が蘇る。
 この人は親戚のFさんで、確か50過ぎに病気になり、会社を辞めたんだったな。

 「こっちに来るのは久し振りだけど、あまり変わっていないね」
 「そうですね。ここはほとんど昔のままです」
 母屋と別棟の他に、離れがあるが、そこには「入ってはいけない」と言われていたっけな。
 前に向き直ると、男は見覚えのあるジャケットを着ていた。
 俺が父のために買った高級品だったが、サイズが合わなくなったから、この男に進呈した服だった。
 俺の視線に気付いたのか、男が礼を口にした。
 「これは重宝してるよ。こんな服は勤め人には買えないもの」
 この話で思い出した。
 「あれあれ。確かあの後、このひとは亡くなったんじゃなかったか」
 俺の記憶が確かなら、このひとは癌が再発して、数ヶ月のうちに亡くなった。

 「となると、やはりこれは夢なのだな」
 奥さんらしき女は別人だし、娘の一人も実在とは違う。
合致する方の娘は、その後程なくして亡くなったが、亡くなった二人だけがそのままで、生きている者は替え玉だ。
 「こりゃ一体どういう意味だよ」
 解釈に困る。

 「僕はあれが食べたいんだよ。だからここに来た。でも自分では食べられないから、君が仕度してくれないか」
 え。「あれ」って何だろ。
 頭の中に皿に載った「何か」が思い浮かぶ。
 何か田舎料理というか、ごく普通のものを田舎風にアレンジしたものだったような気がする。
 「でも、俺でいいんですか。誰かもう少し料理の出来る者に頼んだほうがいいんじゃないですか」
 「いや。あんたじゃないと駄目なんだよ。俺が頼めるのはあんただけだもの」
 そう言う男の顔は妙にのっぺりしている。

 「ありゃりゃ。このひとはただ夢に出て来ただけじゃなさそうだ。この夢はあの世に繋がっていたりするのかもな」
 夢を通じてあの世の住人が語り掛けているとしたらどうだ。
 確かに、今の俺なら聞き分けられる。
 「でも、さすがにこの俺でも、これが現実にまで繋がっているとは、俄かには信じがたい」
 こう思った次の瞬間、周りの景色がばたっと暗くなり、俺は闇の中に取り残された。
 「ピンポーン」と玄関のチャイムの音が響く。
 ここで覚醒。

 チャイムの音は「ただの夢ではない」というお知らせだろうと思います。
 男が所望した「あれ」とは、牡丹餅と胡桃餅をひとつずつ皿に載せたもので、母方の祖母の手製の菓子でした。
 祖母は独自のレシピを持っており、これが抜群に美味かったので、私も心待ちにしていました。これを 「もう一度食べたい」と願うのは、私だけではなかったということです。