◎夢の話 第712夜 死人との麻雀
27日の午前3時に観た夢です。
たまたま駅前で友人と会い、それから一緒に飯を食うことにした。
「その前に、ちょっと雀荘に寄って来る。チップをそのまま置いて来たから」
俺はついさっきまでその雀荘にいて麻雀を打っていたのだが、食事のため抜け出ていたのだ。
そこで、友人と連れ立って雀荘に行くと、メンバーから「2人入ってくれると、2卓立つ。ちょっと付き合ってよ」と乞われた。
俺は断ろうとしたのだが、友人の方が「やる」と言い出した。
そこで、一人ずつ別の卓に入り、半荘3回ほど打つことになった。
友人は勤め人だし、こういうリーチ麻雀は学生や職場のそれとは違う。この雀荘みたいに、千点3百円くらいからは客層が少し変わって来て、同時に麻雀の質も変わる。
少し心配になるのだが、まあ、ビギナーズラックというものがある。
どういうわけか、覚えたてだと博打は負けないもんだ。
卓に座り、打ち始める。
何気なく、対面のオヤジに目を向けると、どこかで見たような顔をしていた。
「ありゃりゃ。この人誰だっけ」
かなり昔に見知った顔だよな。
しばらく考えさせられたが、東3局でようやく思い出した。
「ああ、この人は俺が二十五六の時に通っていた雀荘の主人だ」
確かS吉会のヤクザで、副業が雀荘経営だったよな。
そのオヤジは、こんな風に麻雀を打っている最中に脳卒中になり、そのまま死んだ。
確か42歳くらいではなかったか。
その時、俺も一緒に打っていた一人だから、最期のことも覚えている。
夜中の2時頃にそのオヤジは、「ちょっと休む」と言って、長椅子に横になったのだが、すぐに高鼾を掻くようになった。
それがあんまり酷いから、様子を確かめると、眠っているのではないことが分かった。すぐに救急車を呼んだが、やはり間に合わず朝には死んだのだ。
「ということは、これは夢だな。俺は夢の中にいるのだ。それなら」
上家に目を向けると、こっちもA坂さんだった。
A坂さんも元丸暴で、その頃は鳶職の職人を現場に回す仕事をしていた。
この人とはどこかウマがあったから、一緒に旅行をしたりしたっけな。
「A坂さん。お元気でしたか」
元気でしたかも無いもんだ。もう二十年も前に死んでいる。
この人は、本当にもの凄い人だった。内臓のほとんど総てに癌が転移して、9回も手術したのに、最初に分かってから20年近く生き長らえた。腸など「メートル」の単位で切ったという噂だ。
それなのに、愚痴を零したことは一度しかない。
温泉に入った時に、腹が切開の傷跡だらけなので、俺が無神経に「痛くはないんですか?」と聞いた。すると、その時だけA坂さんは「そりゃ痛えよ」と答えた。
癌患者は亡くなる十日前くらいまでは、普通にしているから、A坂さんが死んだ時も皆がびっくりした。
確か50台の後半で死んだっけ。
「となると下家だって」
目線を向けると、やはり死人だった。相当な打ち手だったが、あまり付き合いが無い段階で、あっさりいなくなったのだ。死んだのが50歳位で、当時の俺の2倍の齢くらいだったが、今となっては「若くして死んだ」ということだ。
さぞ無念だっただろうな。
「はは。相手にとって不足は無いぞ。俺だってゾンビみたいなもんだし、大体、今の皆さんは俺より年下だものな」
やっつけてやる。まだ払っていない三途の川の渡し賃だって、剥ぎ取ったるで。泳いで渡るんだな。
こう思った瞬間、店の壁が「どん」と鳴った。
店内の皆が顔を見合わせる。
「何、今の」
すると再び、「ドン。ドドンドン」。
「こりゃ誰かが外から壁を殴りつけている感じだな」
だが、ここで、俺の脳の「覚醒スイッチ」が入った。
「目を覚ませ。そいつは心臓の音だぞ」
不整脈の衝撃が音になって聞こえているのだ。
ここで、自ら覚醒。
目覚めると、やはり心臓が「ドコドン」と不規則に鳴っていた。
しかし、それに続き、家の外の壁を3回、「ダンダンダン」と叩く音が高らかに響いた。
おいおい、両方かよ。
思わず溜め息を吐く。