日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎夢の話 第919夜 後ろの人

◎夢の話 第919夜 後ろの人

 五日の午前五時に観た夢です。

 

 日没間近の薄暗がりの中、川沿いの小道を歩いている。

 人気のない道で丘側は畑だ。

 農家が建てた作業小屋の前を通り過ぎようとすると、その小屋の影からふらっと人が出て来た。

 突然のことだったので、「俺」が身構える。

 そこに現れたのは、青いジャンパーを着た女だった。

 ジーンズの腰の辺りに警察のバッヂが付いているから、女は刑事ということだ。

 その女刑事が「俺」に何かを向けた。

 バスタオルでぐるぐる巻きにした何かだ。

 「俺」はここで事態を悟った。

 バスタオルで包んでいるのは拳銃だ。音が小さくなるようにそうしたわけだが、そのことは同時に女刑事が「俺」を逮捕するつもりがなく、「殺す気」だということを意味している。

 実際、女刑事はひと言も言葉を発さずに、「俺」を二度撃った。

 一発は肝臓に、もう一発は臍の下辺りに命中した。

 「俺」はたまらず、その場にひっくり返った。

 肝臓の方は致命傷だが、直接の死因は出血多量だから、死ぬまでに十五分は掛かる。

 今誰かが「俺」を見付けて救急車を呼んでも、もはや間に合わないのだが、死ぬと分かってからの十五分は、かなり長い。

 

 女刑事がそこで初めて口を開く。

 「わたしのことが分かる?」

 「俺」が女の顔を見る。

 「俺」はその女の顔に見覚えがあった。

 「ああ。お前はあの時の子どもだな」

 あれは十四年前のことだ。

 「俺」は裕福そうな家に強盗に入ったのだが、その家にいた夫婦を二人とも殺した。

 玄関先で二人を殺し、室内を物色していると、何やら上の階で人の気配がある。

 夫婦の断末魔の声を聞かれたはずだから、たぶん、見られてもいる。

 そこで「俺」は証人を亡き者にすべく、階段を上がった。

 上にあるのは夫婦の寝室と子ども部屋だから、いるのは子どもだ。

 ところが子ども部屋を探しても、その子どもが見つからない。そこで「俺」は夫婦の部屋に行った。そこにも人はいない。

 しばし思案したが、何となく視線が向けられているのに気づき、上を見上げると、ロフトの窓が開いており、そこから女児が「俺」を覗き見ていた。

 ロフトに上がる梯子は上げてあるから、「俺」は上には行けない。

 この時、既に七八分が経っていたから、物音を聞きつけた近所の者が通報をしていれば、あと一二分で警察が来る。

 そこで「俺」はその女児に声を掛けた。

 「お前は頭が回るな。それが正解だ」

 「俺」は階段を降り、家の外に出た。

 

 その時の子どもが「俺」を撃った女刑事だった。

 「何時かはこんな時が来ると思っていた。それがお前なら、それこそ因果応報と言うものだ」

 あの時の女児が恨みを忘れずに刑事になり、ずっと「俺」を探していたというわけだ。

 自身の死期を悟り、「俺」の意識が遠のく。

 女刑事は「俺」が死ぬのをじっと眺めている。

 

 「ドクン」「ドクン」という心臓の鼓動が次第に間延びして来た。

 程なくそれがほとんど感じられなくなった。

 俺は「ああ。ついにコイツも死んじゃったか」と思う。

 俺はここで「俺」の左肩から、右手を離した。

 ずっとコイツに寄り付いて、散々楽しませて貰ったが、それもこれで終わりだ。

 コイツが何か悪さをする度に、俺が背中からけし掛けていたのだが、コイツはそれに気付いていたかどうか。

 ここで、俺の肩がすうっと軽くなる。

 俺の背後から「ふう」とも「ほう」ともつかぬ溜息が漏れ聞こえた。

 なるほど。俺の後ろにも俺のような幽霊が何体も連なっていたわけだ。

 幽霊が自身の後ろに連れている幽霊に気付かぬとはな。

 何だか滑稽だ。

 

 ここで俺が後ろを振り向くと、十体を超える霊体が一斉に前の者に掛けていた手を離すのが見えた。

 独りだと思っていたが、実際はムカデ行列だったわけだ。

 ここで覚醒。

 

 先日、神社に参拝した帰りに、駐車場で車に乗ろうとすると、何やら遠くで男性が叫んでいた。道路向こうだから、四五十メートルは離れているのだが、路上に倒れ込んだ男性が何やら叫んでいたのだ。

 離れているので、状況がよく分からないが、周囲に車や人は見当たらない。

 「もしや轢き逃げにでもあったのか」と思い、数歩そっちに足を向けた。

 私より先に気付いた人が七八人も前にいて、その人たちも男性のことを見ている。

 そこで、その男性の言葉が聞こえて来た。

 「すいません。この通り謝ります。だから勘弁してください。悪気はなかったのです」

 男性は路上に両手をついて、「何者か」に謝っていた。

 土下座をしていたわけだが、男性の前には誰もいない。

 

 「おいおい。一体、誰に謝っているんだよ」

 幾人かが男性の方に近寄って居たが、そういう状況が分かると、すぐさま背中を向けて戻って来た。

 「障らぬ神に」何とやら、ということだ。

 さすがこういう時の人の反応は早い。

 姿かたちの見えぬ「何か」に関わり、自身に乗り換えられでもしたら、とんでもないことになるからだ。

 男性は怪我をしている風でもなく、一二分後には姿を消していた。