◎夢の話 第1K33夜 遊園地跡にて
十八日の午前二時に観た夢です。
高速道路を走行していたが、予定時刻よりかなり早く目的地に着きそうな按配だ。
その地で時間を潰して待つことになるから、この後はゆっくり移動することにした。
次のインターで降り、迂回路ルートを進む。
すると、県道だった筈が、次第に寂れた山道に入って行く。
「ありゃりゃ。この方角で良い筈だが」
ま、大雑把な見立てだ。
細い道を進んでいたが、急に視界が開けた。
山の斜面が両サイドに遠ざかり、開けた場所に出た。
左右ともうっそうと樹々が生い茂っているが、合間合間に構造物の残骸が見える。
「ここは何だろ?」
車の速度を落とし、見物しながら進む。
すると、すぐに遊具らしきキャラクターが見えて来た。
なるほど。ここは以前、遊園地だった訳だ。
こういう場所は全国にある。
ブームに乗り、遊興施設を作ったは良いが、数年でそのブームが去り経営に行き詰って放置された場所だ。
壊す金も無くなっているから、建物などはそのまま朽ちるに任せている。
「幽霊でも出そうなほどだが、遊園地跡にはほとんどその手のは出ない」
ひとが「思い入れ」を残す場所には、幽霊が居残ることが多いのだが、居そうに見えて廃遊園地にはあまりいない。もし居れば何か別の事情があったケースだけ。
病院跡や墓地にも、ほとんど幽霊は出ない。ひとがその場に愛着やこだわりを持つところではないからだ。誰でも病院や墓場には長居したくないから、死んだ後もそこには寄り付かない。
逆にひとの生活の場であるところの住居跡、マンション、駅などには、沢山の幽霊たちが集まる。
急に小用を催して来たが、道沿いにトイレがあった。元はこの遊園地のものだったろうが、道路のすぐ傍だから、今も使えるようになっているかもしれぬ。
降りてみると、やはり使えるようで、中も時々、掃除されている気配がある。
トイレもやはり幽霊はほとんど出ない。出そうに思うのは生きている者の心情だ。
仮に出るとすれば、トイレとは無縁の別の理由による。
小用を済ませた後、少し周囲を歩いてみることにした。
あまり見かけぬ風景だし、壊れた遊具の残骸の写真でもあれば、「バエる」かもしれぬ。
トイレの横に小道があったので、その先に進んでみる。
すると五十㍍も行かぬうちに、何やら檻のようなものが見えて来た。
と言っても見えるのは天辺だけで、全体がほとんど草に隠れている。
正面には行けぬようなので、二十㍍手前で道を逸れ、坂の斜面を迂回して、上から眺めることにした。
するとそこにあったのは、大きな鉄格子の嵌った檻だった。
そして、その中に大きな黒い狼がいた。
「おいおい。何でこんなところに狼がいるんだよ」
もしや、でかくなった狼を飼い切れなくなり、飼い主がここに放置して去ったのではないのか。
可哀想に、それではじきに餓死してしまう。
「では、役所に通報してやろう」
動物園に引き取って貰うなり、今の境遇よりはましな展開に貼る筈だ。
すぐに電話を掛けたが、山の中なので携帯が繋がらない。
仕方なく、とりあえず状況を確かめるべく、檻の傍に行くことにした。
檻の中の狼はかなりでかい奴で、体長が三メートルくらいもある大物だった。
「こんな狼は聞いたことが無いぞ」
この俺の呟きを狼が聞き留め、首を曲げてこっちを見た。
思わず声を掛ける。
「おい。お前は何でこんなところにいるのだ。ご主人に捨てられたのか?」
狼は黙って俺のことを見続けている。
もはや相当弱っているのか。
「ではどうしてやろうか。鍵を開けて放したら、コイツは周辺の家畜や人を襲うだろうからそれも出来んし、よもや俺が飼うわけにもいかん」
やはり最寄りの役所まで行き、このことを告知すべきか。
頭の中で「野犬同様に殺処分されてしまうかもしれんぞ」という声が響く。
育ち過ぎて飼い主に捨てられた哀れな犬に、俺が引導を渡すわけか。
「お前は可哀想なヤツだな。子どもの頃は子犬として可愛がられたろうが、大人になったお前のことは、殆どの者が疎ましく思う」
俺の田舎では、冬になると都会から沢山のハンターが狩猟犬を連れてやって来るが、猟期が終わると、ハンターは用が済んだ犬をそのまま山に捨てて行く。禁猟期に飼い続けるのも面倒だし、猟期前に訓練に出す必要があるから、最初から訓練済みの犬を飼った方が早いし手が掛からない。
で、そんな猟犬たちは、冬の間に山の中で寒さと飢えのために死ぬ。
ひとはなんと残酷な生き物なのだろう。可哀想に。
狼は変わらず俺のことをじっと見ている。
「ま、ここで餓死するよりは、動物園に送って貰うチャンスに賭ける方がましだな」
俺はそう腹を決め、車の方に歩き出した。
すると、その数秒後に背後でがちゃんと音がした。
振り向くと、鉄の檻の格子戸が開き、狼がのっそりと出てくるところだった。
「げげ。鍵は掛かっていなかったのか」
それじゃあ、あの狼は出入り自由だったわけだな。
しかも、ここにはあいつにとって格好の餌が立っている。
「生命の危機は俺の方だったのか」
全身の毛穴が開き、脂汗がしたたり落ちる。
だが、狼は俺のことを一瞥すると、くるりと背中を向け逆の方向に向かって歩き出した。
俺はその様子を見て、何となく「コイツは俺のさっきの話の中身が分かっている」ような気がした。
だが、俺はすぐに気が付いた。
「それはそれで問題だぞ。数キロも行けば人家があるから、あの狼が人間を襲うかもしれん」
子どもが食われたりしたら気の毒だ。
やはり早く通告する必要がある。
俺は急いで車に戻るべく、駆け足で坂道を降り始めた。
ここで覚醒。
夢判断では「狼」はほとんどの場合、「危機の到来」を表す。
来たるべき危機に対する恐れや不安感がかたちを変えたものだ。
しかし、私の場合、つい幾日か前までまともに起きられぬほどだったから、「何を今さら」の話だ。
「死ぬ」こと以上の危機があるのか?
それどころか、ほんの少しだけ、私は黒狼と共感しさえしていた。
檻の中に押し込まれた境遇なら、まさに今の私がそれだ。
実際、「自分が死んだら、直ちにこの世の愚か共たちに熾烈な祟りを与えてやろう」と思っていた。
檻の中にいたのは、私自身の怒りだったのかもしれん。
遊園地跡地は化女沼に似ていた。
追記)なるほど。「狼」は危機の象徴で、それが解き放たれたのに、私のことをスルーして他所に行った。今回も死なずに済んだわけだ。
まだ回復途上の状態だが、「深刻な危機は脱した」という暗示だ。
また戦える。