


◎古貨幣迷宮事件簿 「未勘銭その他」その3)補足 銀銭の偽物
その3)では、摸鋳銭にどのような特徴が生じるかを、実際に作ってみて確かめた経緯を記した。
この手の、銀銭もしくは白い銭は市中で時々見かけるから、少し補足する。
その3)イ 合金製の白銅風の銭
白銅銭は収集家の好むところでもあるから、摸鋳の対象になりやすい。
タングステン合金が最も多いのだが、表面色が白っぽいものは容易に作れるようだ。
ただ、銀でも白銅でも、短期間のうちに表面が黒ずむのだが、合金製の品はこの劣化が遅く、空気に晒して置いてもなかなか変色しない。
輪側の処理はグラインダで処理した「粗い横鑢」が最も多く、次が「何も処理しない」ものになる。石膏型で丁寧に作ると、輪側は軽く磨布で拭くだけで整う。
昭和では、歯科で使う技術でゴムで型を採り、そこから石膏型を起こすやり方もある。
気を付けるべきは、かなり広範囲に雑銭に混ぜられていることだ。
一般の人が「家にありました」と持ち寄ったウブ銭っぽい雑銭の中に入っていたことがあった。
「自然なかたちで発見させる」というのも、贋作をそれなりの値で売る手法のひとつで、かつて昭和の初めには、希少な鉄銭の写しを作り、ウブ銭のカマスに混ぜて売った者がいた。
雑銭から出るので、拾ったものはそれが本物だと思い込んで疑わない。
「雑銭から出る」という評判が立てば、買い手の少ない鉄銭がカマスごと売れるようになる。売りたいのは偽物ではなく、何万枚の鉄銭の方だった。
「拾い物・役物を極力残す」のは、雑銭の価値を下げぬ手法のひとつだが、「偽物を混ぜる」となると、さすがに詐欺的手法になる。
その3)続ロ 合金製トレードダラー
タングステン合金と言うと、典型的な品がトレードダラーの偽物だ。これはこの銀貨が実際に決済用に使われていた時代から存在しているが、当時は通用させることを目的とした贋作、すなわち「贋金」だった。
比重を測るまでも無く、机の上に置いたまま半年一年経ても色が変わらない。
よく出来たものもあるようで、当時の荘印が打たれたものがある。結果は、たぶん、アウトだったろう。
雑銭の会の名称の頭にまだ「練馬」が付いていた頃、区内の建設屋さんから連絡があり、その会社を訪問した。
「弊社はフィリピンで工事を請け負っていますが、地中から銀貨が出ました。これは山下財宝と呼ばれるものでしょうか」
基礎工事を打っていたら、土の中から「ドラム缶に入ったトレードダラーが出て来た」という話だ。現物を実見すると、いずれも鋳造製だった。
フランスやメキシコの貿易銀で、かたちは良いが銀製ではない。
この時はこう回答した。
「トレードダラーの本物は打製だし、これは銀ではありません。ですが、日本軍が関係したものだと思います。軍はアジア各地で貴金属を徴発したのですが、それには当然、当時の偽物が混じっていました。検品をして、銀ではないダメなヤツをドラム缶にぶち込んで廃棄したのでしょう」
この時には、まだDMSでなく、電子MSでの鑑定だったが、まず間違いはなかったと思う。
その後、どうなったかは聞かぬが、「何千枚何万枚の銀貨が発見された」というニュースが流れなかったところを見ると、やはりクズ金属の扱いになったのだろう。
その3)続ハ 最近の銀写し
この画像は、ネットで売られている参考銀銭だ。
ごく軽くグラインダで処理しているが、ほとんど研磨をした痕がない。
これも「していない」ことが参考品の証になる。
注意すべきは、銭径の縮小がほとんどないことで、製造方法が単純な「石膏などによる型取り」から「冶金」に至る流れにはない。
今では「型を採る」ことも不要で、写真撮影から3Dプリンタで、直接金型素材が作れるらしい。その際に、金属の縮小率を補う調整が出来るので、もはや「写しが小さい」というのは、思い込みでしかなくなっている。
注記)週に四日通院しており、三十分で画像をセットして、三十分で殴り書く記事となっている。推敲や校正は出来ぬので、それなりの内容だ。
ま、核心的なことは、ウェブになど書かぬので、あくまで表面だけの話になる。