◎古貨幣迷宮事件簿 未勘銭の続き
ようやく硝子体出血が治まり、前が見えるようになった。
よってこれから整理を再開する。
これまで感謝バーゲンが半年に及んだが、次の盆回しでひと括りすることにした。
残りがかなり少なくなり、「※※カリ」とか「※※オク」などネット媒体の方が向く品ばかりになった。
また、そろそろ「権利を取れば、大体当たる」ことに多くが気付く頃だ。いくら餅を撒いても得るものはないので、今が撤収時だ。当籤確率が三割を超えると、さすがに整理出品の手が止まるので、最近は本末転倒気味でもある。
次の皐月賞近辺で、そこでひと括りにしようと思う。
さて、以下は収集の対象ではなく、何となく取り置いた「ささいな品」だ。
これまでの幾度か記事にして来たが、誰も興味を持っていないと見え、反応がない。
捨てるのも何だから、選択式の景品にして、盆回しの抽選に回す。
(1)~(3)背長銭の守備範囲
「誰もやらない」典型的な銭種が背長銭だ。寛永銭譜には、一枚の拓だけが収録されていることがほとんどだ。存在数が多い割には、変化が少ないように見えることが理由だが、これまで指摘して来たとおり、それは「変化がない」のではなく、「見るべきものを見ていない」からだ。要は古貨幣の収集家は、殆どが「分類バカ」で、先輩が残した銭譜を基に、そこから一歩も出ることなく、「小さい変わり」、とりわけ、他の人が気付かなかったささいな相違点を見出すことに専念していることによる。
ちなみに、近代貨コレクターの方は「状態バカ」で、何だか訳の分からぬ状態評価を幾層にもわけて喜んでいる。
(口が悪く聞こえるが、あくまで自分もその仲間の一人だったので、けなしではなく自嘲のつもりということ。)
だが、面白い素材は沢山ある。
ひとつ目は「背長銭は、存在比率から見ると、おそらく何千万枚規模の鋳銭を行っているのに、母銭の数が少ない」ということだ。
古銭家がイメージするよりも、「ひと工期」は案外短くて、一旬から長くとも二旬だ。金属と燃料を用意し、人材の配置が完了してから一気に行う。職人一人につき、日に二百五十文から三百文の俸給を支払う必要があるから、なるべく短期間に納めることになる。それが終わると、一旦解散になるから、その際の用具の処置はどうしたものか。
一発単期の鋳銭ではなく、副数次に渡り継続的に鋳銭計画を持つ銭座では、役人もしくは職人を「ほぼ常駐させる」ケースがあったようだ。
宮城県の石巻銭座に関する案内文を見ると、「銭座には職人が百数十人いたようで・・・」等と記してある。
何万貫の鋳銭量を誇る石巻の鋳銭職人が百数十人だったわけがない。藩庁が裏で糸を引くような銭密鋳では、いずれも一千人を超える職人が従事したから、天下の石巻銭座が、その程度である筈がない。
と思うわけだが、資源は無限異供給できるわけではないので、いつも銭座で鋳銭を行っていたわけではない。維持管理や、次の鋳銭計画にむけての準備みたいなことを行う機関も必要になる。
脱線したが、現存の背長銭の数を見ると、母銭を何万枚規模で使用した筈だが、それはどこにいったのか。
これは次の疑問にも繋がっているが、「背長銭には、出来が著しく悪い銭があるが、母銭と合わない」ものもある。砂の良し悪しの範囲を超え、出来が悪く、現存の母銭のみを使用したなら、そういう品にはならない。
簡単に言えば、「出来の悪い品は、出来の悪い母銭を使って作ったのではないか」ということだ。
そのひとつの可能性が(2)で、この背長銭は、背面から表に向けて、穿をきちんと切ってある(刀入れ)。また、内輪の複数個所に、刀で修正した痕が残っている。
さらには、全体に渡り、細かな摩耗が見られる。これが砂笵で型を採ることを繰り返した時の摩耗に近似している。
きれいな通用銭を修正して母銭利用したケースがあったかもしれぬ。
いわゆる「末鋳母」ということだが、しかし、母銭を仕立てるように銭を加工するケースは、本銭だけでなく、写しでも行われる。
他領一般通用銭の美銭を台にして、修正を加え、母銭利用するという「母銭改造」のケースがそれで、多くは奥州で行われている。
類例が少ないので、結論は出ていないが、「どう作ったのか」「どう使ったのか」に興味を持つ者にとっては、面白い素材だと思う。
(3)は刮去銭らしき背長だ。背面がぺったりと消失した、いわゆる背夷漫銭なら、割と見掛けるわけだが、輪と内郭の境目が見えているのに、「長字だけ無い」品もある。
長字の盛り上がりは、本来、歴然としたものなので、刮去銭が存在する可能性はあると思う。もちろん、まだ先は長い。
(4)本銭と写しのどっち?
01は本来の銭、03は八戸密鋳写しだが、では、03よりも小さい02は果たしてどっち?
金味は密鋳銭と言うより本銭径のように見える。この銭種にはかなり小さい品も散見できる。一方、「穿が大きい」という特徴も目立つ。単なる再鋳銭なら穿は小さくならず、棹通しのための刀入れなどを通じて広がる。修正が入っていれば、「密鋳写し」ということ。
(5)合金製寛永
白銅風の地金なのに、空気に晒しても黒変しないので、合金製だと分かる。
銀も白銅(錫味による)も、数か月ほど空気に晒しておくと、表面色が変わるから、見極めは簡単だ。
トレードダラーの偽物(通用贋金)と似たような素材だから、おそらくはタングステン合金か。
かなり古くからあるようで、輪側などが擦れて摩耗している。
トレードダラーの贋金は百年以上前からあるが、割と古い銭箱の中からも出たりするので、その頃には、既に合金寛永が作られていたのかもしれぬ。
意図は不明。
通用目的の密鋳銭には白銅銭は無い。その理由は、「錫が高価で、これを多用すると、本物を作るよりお金がかかる」から。勘定が合うケースは当百銭から。
注記)一発書き殴りで推敲も校正もしない。中身は日々のよしなしごとに過ぎぬ。
そもそも眼疾で文字が見えぬことの方が多い。