日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎扉を叩く音 6/30の記録

◎扉を叩く音 6/30の記録

 「深夜に玄関の扉を叩く音が響く」話の続き。

 十五年以上前から二年前くらいまで、夜中の二時三時に玄関の扉を「コンコン」または「ベタベタ」と叩く音が鳴っていた。二年前からは、そんな扉のノック音が無くなったが、その代わりに家の中で物音がするようになった。要は何時の間にか玄関を通過して、中に入るようになった、ということだろうと思う。

 

 隣家のご主人は二年前くらいに顏に皮膚癌が出来、それを切除したが、その手術で顔の神経を切ってしまったので、顔の左半分がだらりとさがり出歩けぬようになってしまった。皮膚癌だけでなく、既に他の場所にも転移していたようで、昨年、家を売り、この地を去った。売却した金で介護施設に入居したらしいが、言伝がなかったので詳細は分からない。

 今はその敷地に住宅が作られており、一軒は既に完成した。割と広い敷地だったので、大き目の家四軒分のスペースがある。

 今は二軒目を建築中だが、その工事のせいで日中はガタゴトと騒がしい。

 すぐ間近で工事をしているので、まるで我が家の中で音がしているかのような音の近さだ。

 

 この日、家には私一人が居て、原稿を書いていた。

 体調がイマイチで、一度に小一時間が限界で、さらにそれを日に数度しか出来ない有り様だ。よって、PCに向かえる時間はもの凄く貴重だ。

 集中して文章を書いていると、例によって「がったんごっとん」と物音が響く。

 壁や窓越しに届く、その音が大きく、まるで廊下や家人の部屋で鳴っているような地位かさに聞こえる。

 床の上でどったんばったんと飛び上がったり寝転んだりする音と同じだ。

 

 「堪らんな」

 文句のひとつでも言ってやりたいところだか、ま、音がするのは柱立ての前後だろうから幾日かの間だ。

 それに、夜中に工事はやらんから、こっちいが夜中に仕事をすればよい。

 と考える間にも「がったんごっとん」。

 

 「最近、女房もだいぶ体重が増えて来たから、あいつが部屋で飛んだり跳ねたりすれば、こんな音が響くだろうな」

 ちょうど、体重が六十キロから七十キロの者が暴れた時の音と同じような響きだ。

 

 午後三時になり、この日の夕食の食材を買いに外出することにした。

 平地を歩くのもしんどいほどだが、家族は皆仕事に出ているから、家にいる者がやらねばならない。

 仕度をして、外に出ると、隣家の工事現場には人が誰もいなかった。

 車も停まっておらず、どうやらこの日は雨天予想だったから、休工にしてあったようだ。

 「それならこの後は音が響かず静かだ。こっちの仕事が捗る」

 そんなことを考えつつ、歩き出したが、そこでふと気づいた。

 

 「今日が休工なら、先ほどまでのあの音は誰が出していたのか?」

 まさか、廊下や家人の部屋で、「誰か」が飛び跳ねていたのか。

 「気のせい」や「空耳」では有り得ぬほど大きな音だった。

 あれは近所の人にも聞こえただろうが、もしかすると「あそこの家の中でご主人が暴れている」と思われたかもしれぬ。 

 

 人のいる気配がするのは、当家では珍しいことではないので驚かぬが、「飛んだり跳ねたり」の規模で響くのはあまりない。