◎扉を叩く音(続)
「毎年、秋から冬にかけて、深夜、玄関の扉を叩く音が聞こえる」話の続きです。
2月27日午前3時40分の記録。
居間でうつらうつらしていると、窓の外に人の気配がある。
「泥棒か、それとも」
かなり前からこの手のはよくある。
落ち葉が散らかっているのに、足音がしないから、たぶん歩いてそこに来たわけではないと思う。
「それじゃあ、幽霊だな」
ゲンナリする。しかし、後ろの家から前の道路へに向けては「通り道」のようなものだから、あまり驚かない。
気にしても仕方がないが、後ろの家が新築の時に入った家族は、半年で出て行ったっけな。次の家族は割と鈍感な方で、何とも思わないらしい。
気にしない人、考えない人にとっては、常に「偶然」や「気のせい」だから、何でもない。
などと考えていると、その男が声を上げた。
「おおお」「おおお」
地面からかなり上の方だから、背が高いのだろう。
すると間髪入れず、二階の方から物音が響く。
娘の部屋かベランダの辺りだった。
「ごとごと」「だだあん」
人が躓いて倒れるような音だ。
続いて、家人の声で何か話す声が響く。
「なんて※※◆なんだろ」
トイレにでも行き、何かを思い出して、娘の部屋に行ったのか。
そのまま朝を迎える。
家人が起きて来たので、言葉を掛けた。
「寝ぼけて躓いているんじゃないよ。なんでそっちの部屋に行ったんだ?」
娘たちは普段、職場の近くで暮らしているから、週末以外、その部屋は空き部屋同然。
すると家人が否定する。
「昨日はずっと寝ていたよ。トイレにも行っていないもの」
「だが、お前の声が聞こえたが」
「それじゃあ、南側のマンションの女のひとじゃないの?時々、お酒を飲んで夜中に帰っては大騒ぎをするから」
「ふうん」
そう言えば、「深夜、その女性が帰って来て、階段付近でごちゃごちゃ騒ぐ」と前からこぼしていたな。
でもここで気が付く。
そのマンションは、声のした部屋とは逆の方角にある。となると、酔っ払った女性ではない。
このところ、ざわざわと人の気配がしたり、がたぴしと家が音を立てるから、その延長にあるのではないかと思う。
騒がしいのも、毎日のことだと慣れて来るようで、それほど驚かなくなって来る。
そうそう何をするわけでもなく、ただ煩いだけだと分かって来ると尚更だ。