日刊早坂ノボル新聞

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◎「学生寮の出来事」の裏話 本当はかなりヤバかった

学生寮の出来事」の裏話 本当はかなりヤバかった 

 「学生寮の出来事」は、保谷学生寮の出来事について、怪談風に記したのだが、その頃の当事者は日々生起している事態を把握できぬので、今にして心底より「ヤバかった」という実感がある。

物語風に記すと、現実感が薄れ、あくまでお話の域になってしまうが、当事者は必死だった。


 四月に寮に入った直後から既に気配が悪くて、六月頃には寮生が一人自死した。
 表向きは、その寮生は「蓄膿症を患っており、勉強に限界を感じて」亡くなったことになっているが、そこに至る過程で、たぶん、あの「声」を聴いていた。
 絶対にそれが影響したと思う。

 ところが、当方のように、あれを経験したのは、たぶん十五六人だ。百五十人は寮生がいたが、気付かぬ方が多かった。
 このため、あれを感じていた側の寮生は、他の者に説明が出来ず困った筈だ。ひとは自分の理解を超える事態については、とりあえず否定するし、耳を傾けない。挙句の果てには「心を病んでいる」と見なされる。

 この年には、高校同期のM田君が同じ寮にいたが、M田君の部屋で話をしていると、向かいの部屋から「ぎゃああ」という叫び声が響いた。
 部屋を訪問出来た時間帯だから、たぶん午後七時台のことだ。
 (八時以降は禁止になっている。)
 驚いて廊下に出ると、廊下には向かいの部屋の寮生の他にもう一人いたが、そいつはその隣の部屋の主だった。
 そいつは言葉を発することも出来ず、ただわなわなと震えていた。
 おまけに小便を漏らしていた。
 向かいの寮生に聞くと、「突然、窓ガラスを蹴破って、窓伝いにコイツが逃げて来た」とのことだった。

 当方は既に経験していたから、その「隣の寮生」に何が起きたかが分かった。
 おそらく、あの「幽霊に立たれた」のだ。
 当方の時には、地上から三㍍以上上にある窓の外だったが、その寮生の場合は、たぶん、入り口のドアの前に立たれた。
 それなら、逃げるのは窓側しかない。
 そこで、まず窓の外に身を乗り出し、隣の部屋の窓ガラスをけ破って、そこから入り込んで来たのだった。

 突拍子もない話なので、M田君にも幽霊の話はしなかった。
 「夢を観たんだろう」ということだけ。
 だが、もちろん、それは表向きの話で、絶対に夢のせいではない。

 寮の中は凄く荒れていて、洗面所の壁などはボロボロだった。
 三階建てなのに、壁がモルタル張りで脆く、寮生がちょっと殴りつけると穴が開いた。で、何人かが故意に穴をあけて回った。
 ま、そいつらは入試には受からなかっただろうと思う。
 補修費を請求される時は、たぶん、一律に寮生の親が負担することになる筈だから、さすがに閉口した。

 この勢いで、冬には「手首ラーメン事件」が起きたから、寮を出る時には、「ここを出られる」ことが何より嬉しかった。
 大学の一年の時には、当方はかなり捻ていたと思うが、その直前まで、他言は出来ない悩み(幽霊なので)を抱えていたのだった。
 でもま、あんなのはまだ序の口だった。

 人間はどんなに酷い状況でも、同じことが繰り返し起きると、だんだん慣れて来る。人のいないところで「何かぼそぼそと声がする」なんてのは優しい方だ。
 新宿の東口では、雑踏の中に、死んだ人を肩車しているオヤジを幾度か見た。最初は「都会はスゲーな」と思ったが、何のことはなく、過去にひとを殺すか見捨てるかしていた男だった。
 目視する時には、普通の人とまったく同じように見えるので、違和感を感じつつもそのままスルーすることが多い。
 こんなことを口に出来るようになったのも、ごく最近のことで、「別にどう思われようが平気」になったということだ。

 今は「背中に誰かを担いでいる」ひとに会えば、すぐにその場で言う。
 で、それだけでなく、写真に撮って見せてやろうと思う。
 たぶん、TPOを整えれば、それも高確率で撮影出来ると思う。
 これまでの例だと、その人は自分の事態を知ると、何故か当方のことを批判したり、「こんなのは見せてくれなければ良かった」と文句を言う。
 そんなの知ったことか。嫌なら当方の前でその話題をするな。
 こちらは「常在戦場」だわ。あの世を甘く見るな。

 ま、当方と一緒にスポットにでも行けば、そこで当方が見ているのと同じ者を一緒に見られると思う。それで、それまでの「幽霊などいない」と言う考えが、ただの思い込みだと分かる。
 どういうわけか、当方の隣にいるだけで、「声」が聞こえるようになるらしい。なら、たぶん、姿も見られる。

 追記)あの世と接点のある場所を「穴」と呼ぶが、今は当方自身が「穴」のひとつらしい。たぶん、心停止の経験があることと無縁ではないと思う。