日刊早坂ノボル新聞

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◎夢の話 第1K98夜 緑の告知

夢の話 第1K98夜 緑の告知

 九月二十日。つい一時間ほど前に観た夢です。

 

 夕日を眺めながら、どこかビーチのテラスで、白いテーブルを前にして椅子に腰かけている。

 テーブルの上にはカクテル。たぶん、シンガポールスリングだ。

 隣には、肩の出たワンピースを着た女性がいる。二十六か七歳くらい。

 たぶん、俺は三十歳くらい。

 「ここはどこだっけな」

 遠くに港の夜景が見える。外国航路の船の灯りが行き来している。

 「セントサ島」という言葉が思い浮かぶが、どこだったかが思い出せない。

 美女と一緒に夜景を眺める。

 絵に描いたような休日の姿だった。

 

 ここで唐突にチャイムが鳴る。

 「ピンポーン」

 これは玄関のチャイムの音だ。

 これで、スイッチが切れるように、ビーチが消えうせた。

 それじゃあ、今までのは全部夢だったか。せっかく、これから美女と燃えるような一夜を過ごす筈だったのに。

 意識がしゅるしゅると、居間に戻る。

 娘を駅に送った後、居間の竹茣蓙の上に座ったら、そのまま眠り込んでいたのだった。

 「仕方ねえ。宅急便を受け取らねば」

 ここで初めて眼を開くと、居間に男が立っていた。

 背の高い男で、眼鏡をかけている。息子と同じ背格好だが、何せまるで顔が違う。

 男は無言のまま、左手で何かを差し出した。

 緑色の紙で、何かの伝票か書付か。

 「え。こりゃ一体どういうこと?」

 だが、すぐに気付いた。

 「俺はまだ夢の中にいるわけだ」

 なら取りあえず、目を覚まそう。

 ここで覚醒。

 

 この話の本番はこれからだ。

 二度目の目覚めをして。体を起こすと、なんと先ほどの夢の男がまだ部屋の中にいた。

 台所のカウンターの奥に立ち、やっぱり左手で「緑色の紙」を差し出している。

 百九十㌢くらいの背の高さで、息子そっくり。眼鏡をかけている。

 カウンターの中に立つと、外からは頭の上が視界から切れて見えぬところがリアルだ。

 

 人間はあまりにも現実離れしたことに出会うと、無感動になる。驚きもしなければ、怖れも感じない。

 「コイツはこの世の者ではないや」

 なら、良い機会だ。触ってみよう。

 男に触ってみるべく、腰を上げようとすると、当のその男の姿が周囲の景色に溶け込んでゆっくりと消えて行った。

 

 「いやはや、俺もいよいよここまで来たか」

 他の者がこの話を聞いたら、さぞ「イカれたやつ」だと思う筈だ。

 だが、いつも私の方が真実を語っている。幸か不幸か、ただの妄想ではない証拠だって、幾らかはある。

 完全に実体化した「あの世の者」を見るのは久しぶりだ。

 あの状態なら、たぶん、触れたと思う。で、触感もあった筈だ。

 

 ここで我に返る。

 「なら、あの緑色の紙はなんだろう?」

 あの世の償還命令なら、今度が本番だが、「あの世の者が伝票を出す」ってのはアリなのか?

 「これはこれまでのサービス料の請求書です」

 ま、召集令状なら「赤色」と決まっているから、何か別の伝達事項かもしれん。

 また何か考えさせられそうだ。

 

 だが、何かのお知らせであることは疑いない。あの「ピンポーン」はこれまで幾度も聞いて来たが、ただの夢ではない。音には「耳に響く音」と「心に響く音」の二通りがあるが、「ピンポーン」には両方のケースがある。

 

 追記)しっかく若い自分が美女との情事を繰り広げる筈だったのに、おかしな方向に曲がってしまった。何だか少し残念なところがある。向かい側ではなく、隣に座るのは既に彼氏彼女の間柄ということ。