◎病棟日誌 悲喜交々 「マサヨシ君」
この日の病院めしは「鮭フライ」だったが、デザートのパイナップルが花輪状に並んでいた。ヴェトナムの研修生の女性が入院患者のために、心を添えてくれた。
感謝の気持ちで、頬ずりまでしたくなる(w)。
最近、すっかり老いてきたようで、Tシャツを前後ろに着ていた。ベッドの上で着替えても問題は無さそうだが、一応更衣室に戻って着替えた。
その時に、中学の同級生のタカハシマサヨシ君のことを思い出した。
マサヨシ君は一般的に言って、「かなりトロい」部類で、いつも青っ洟を垂らしていた。小学生には時々いたが、中学生では珍しい。
ある時のこと。
体育の授業で、運動着に着替え、体育館に行くと、マサヨシ君がいた。
ジャージが摺り落ちており臍が出ていたが、パンツのタグが見える。
「マサヨシ。お前はパンツを後ろ前に穿いてるぞ。おまけに裏返しだ」
そう指摘すると、マサヨシ君は「そうか」と言って、その場で穿き替えた。
おいおい。チン※丸出しじゃねーかよ。
ちなみに、周囲には女子もいた。
普通の男子なら(そもそもやらんが)、もしいきなり目の前でパンツを脱いだら、「きゃあ」と叫ばれただろうが、マサヨシ君はマサヨシ君なので、皆が「仕方ねえな」って受け止め方をした。
ま、悪気が無い時には笑えない。
ついでに思い出した。
小中学生の時に、半強制的に相撲をやらされたが、まわしを自分たちで締めるから、どうしてもきっちり巻けない。
試合に行くと、児童や近所の大人たちが見物していたが、熱戦になり、まわしが緩くなりズレてしまう子どもがいた。
やはりチン※丸だしだ。
女子の殆どがそれを目にしたが、騒いだら一生懸命相撲を取る子が可哀想なので、目を背けていた。
ところで、当時はこのマサヨシ君を見る度に、当方は「コイツは土建屋になれば憶の金を儲けられる」と思っていた。
ただの直感だから、本人には言わなかったが、あれからコイツはどういう人生を辿ったのか。
もし土建屋になり金持ちになっていれば、すぐに集りに行こうと思う。
「金持ちのすべきことは俺のような文化人(w)を援助することだ。お前にはその義務がある」(違うか。)
ただそれも、あの当時に「お前はこうすれば成功できるから必ずそうしろ」と言って置く必要があった。最後の集りの件はどうでもよいが、マサヨシ君がきちんと自分の道を見付けて成功していてくれれば、「あの時助言してやれば」という後ろめたい気持ちが無くなる。
ま、昔の金持ちは一様に文人を保護していたのは事実。
一代で財を成した瀬川安五郎なども、政界や文化人を支援していた。相場で失敗して、茶碗と箸だけを持って豪邸を出て行く時にもサバサバとしていた。
あれだけ世話になった者たちは、落ちぶれた安五郎には誰も手を差し伸べなかった。
でもそんなもんだと思う。
安五郎は無一文から身を起こしたから、それを失っても動じることなく余生を生きた。
ひとの真価は「総てを失った時」に初めて分かる。
彼氏彼女の大きさも、それを知るのはやはり別れた後だ。
もう一人思い出すのは、セガワコージ君だ。
セガワ君は絵が上手くて、独自の世界を描いた。
「コイツは絶対に芸術畑に進むべきだよな」と思っていた。
だが、人間には暮らしがあるし、「総てを捨てて芸術に生きろ」と押し付けるのは難しい。コージ君はきっと絵を描くのを止めただろうと思う。
だが、アイツが生きた爪痕を残すのは絵を描くことだった。
なんてこった。左眼がましになったら、今度は右眼がよく見えない。視界の一部が歪んで見える。 いよいよ身体機能が崩壊に向かうのか。