◎夢の話 第1116夜「ここにいたい」
九日の午前一時に観た夢です。
引越しをすることになり、旅立ちの支度を始めた。
今の家が「契約期限切れ」で、立ち退きを迫られているからだ。
ここで薄らぼんやりと頭が働く。
「契約切れと言えば、夢でそんなのを時々観るよな。夢の中で自分がいる建物は、自分の体のことだから、『お前はもう寿命を過ぎているのだから、その体から出るべき』というような内容だった」
ま、そんなのは夢の世界の話で、今の俺の前の現実とは関わりがない。
(まだ、自分が夢を観ていることに気付いていない。)
旅装が出来、空港に向かって出発した。
道に出ると、しかし、唐突に母が渋り始めた。
「私はどこにも行きたくないよ。ここに居たい」
背後でこれを言われ、俺は少し驚いた。
あれあれ。お袋は四年前に亡くなったのではなかったか。
あれからも、ずっと俺の家に居たのか。
「お袋。何となく感じていたが、お袋は俺の家にいたんだな」
そう言えば、俺が家に一人でいる時に、決まって家のあちこちでカサコソと音が聞こえたが、あれはお袋だったか。
俺も女房もコレクション癖があり、家の中が雑然としているから、きれい好きの母には我慢できなかったのだろう。
母の言葉には逆らえない。
「分かったよ。もう少しここに居られるように努力するから」
もう通りに出ていたのだが、そこで引き返すことにした。
ここで覚醒。
眼が覚めた時、すぐに感じたのは「自分はもう少し生きているようだ」ということだった。まだ半年くらいの猶予はあるかもしれん。
ま、幕末の話を書き始めたから、気合が入り始めたということか。
やり遂げるまでは、死んではいられん。
少し面白いのは、夢の中で家に戻ろうとした時に、もう一人が「私もまだここにいるよ」と声を上げたことだ。
声の主は画像の文政丁銀で、幾度売却に供そうとしても買い手がつかなかった。相場の半値に値を下げても、まるでひとの目に入らないかのよう。これでその理由が分かった。
長きを共にした物には「魂が宿る」と言うが、コイツもこの家が気に入っていたのか。
ま、私はいずれいなくなるから、その前に嫁入り先を探してやろうと思う。もちろん、売却するのではない。
この丁銀が「女」だったとは、これまで思いもしなかった。
私の周りには、常時二十人(体)くらいの女がいるようだから、その中の一人の魂が物に入っても、別に不思議ではない。