日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎病棟日誌 悲喜交々4/20「意識飛ぶ」

病棟日誌 悲喜交々4/20「意識飛ぶ」
 土曜は通院日。
 開始後、二時間くらいで、体調が悪くなった。ムカムカするし、鳩尾が重い。急に便意が始まった。
 生あくびも出始まったので、「血圧が急激に低下している」と分かった。体調がイマイチの時に治療を受けると、時々こういう風になる。
 血圧を計測して貰うと、80台だった。
 「ひとまずベッドの角度を戻し、脚の方を上げますね。具合が悪いようなら、すぐに呼んでください」
 看護師に呼び出しスイッチを渡された。

 十分くらい経ったが、全然良くならず、鳩尾は鈍痛に近くなった。血圧の上下向が著しいと血栓が出来やすくなり、この病棟でもその症状で循環器に搬入される患者が時々いる。
 だが、便意の方が強くなったので、そっちが優先だ。漏らしたらさすがに気落ちする。
 「昨日の夜にピートルを飲んだから、腹具合が悪い。中断してトイレに行かせてください」
 この日の担当はウエキさんだった(五十台女性)。
 すぐに機械を外し、車椅子に乗せられて、トイレに行った。
 トイレの中に入ったところで、意識が飛んだ。

 我に返ると、既に自分のベッドで、看護師が三人がかりで当方をベッドに戻していた。
 「ありゃ。俺はトイレに入った筈だが」
 それから、ベッドに戻るまでの記憶がない。
 すると、ウエキさんが謎に答えてくれた。 
 「トイレの中に入ったところで、かくんと頭が落ちたから、すぐに他の看護師を呼んで、連れ帰ったんですよ」
 すぐに血圧を計測したが、やはり上が60台だった。
 機械を繋いで、輸液を戻して血圧を上げることになった。

 「俺はトイレはしてないですよね」
 「落ち着いたら、また行きましょう」
 だが、意識が戻ってみると、既に便意は消えていた。
 総てが血圧の急激な低下による症状だ。最初に生欠伸、次にお腹の調子が悪くなり、鳩尾がムカムカ。ここで嘔吐する人もいる。ちなみに「鳩尾ムカムカ」は心不全の症状とも同じだから、注意が必要だ。時代劇では「心の病」で胸に「差し込み」(痛み)を覚える場面がよくあるが、実際の心不全は痛くない。
 鳩尾に砲丸投げの玉を入れたように、重く冷たくなる。痛くなるのは最終局面で、「痛い」と口に出せぬくらいだから、差し込むどころではない。この時点で処置が始まっていなければ、そのままこの世とオサラバだ。
 救急処置室の前にある長椅子に座っていると、そういう患者が運ばれる場面を時々目にする。

 こういう症状がたまにあるので、「今日死ぬ」とは思わなかったが、実はかなりヤバくて、腸内にあるものを排出したくなる。
 便意を催すのも危機のサインで、動物は死に間際に腸の内容物を排出して死ぬ。ゴキブリが「ホイホイ」に捉えられると、死に間際に便を排出するので、脇に便の塊が盛り上がっている。象も同じ死に方で隣には山だ。生き物はそういう仕組みになっている。
 状況的には、結構危なかった、という意味だ。

 結局、800グラムくらいの水を戻して治療を終えた。
 この頃には血圧が上がっているので、かなり楽になっている。
 晩年の母は、時々、血圧が60台に下がり、救急窓口を訪れていたが、長患いで体力の乏しい人だったから、どれだけ苦しい思いをしたのだろう。自分が同じ状況になって、初めて母の苦しみを理解した。

 器具の取り外しには、若手のユウコちゃんが来た。
 「意識が飛んだのが、便座の前に立っている時でなくて良かったよ。それで意識を失くしたら、便器に顏を埋めて溺れたかもしれん。そんな情けない死に方がある?」
 冗談なのだが、マジに起こりうる話だ。トイレのドアを開けたところまでしか記憶になく、その後の数分間は何があったか分からない。。十分に溺れることが出来る時間だ。
 便器内の水で溺死かよ。

 帰り際にウエキさんに会ったので、「今日も天使に見えましたよ」と伝えた。容体が悪い時には「看護師さんが天使に見える」という話をしたことがあるので、その流れだ。
 するとウエキさんは、「そこは『今日も』ではなく、『いつも天使だね』と言ってね」と笑っていた。
 当方も「こりゃどうも。言葉が足りなくてスマンね」と返した(w)。

 画像は駐車場の端に咲いていたつつじ。
 今週が芝桜が最盛で、来週がつつじらしい。
 否応なしに時間が過ぎて行く。
 当方の心はいつも晴れて気分が良いが、体の方は着実に崖に向かっている。今は「燃え尽きる前の蝋燭の炎」なのかもしれんが、別にそれはそれで良いと思う。