日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

九戸戦始末記 北斗英雄伝 其の四 末摘花の章

[この章のあらすじ]
疾風一行は三戸に到着し、情報収集のため、伊勢屋という娼館を訪れる。そこには源氏物語を諳んじる「おへちゃ(末摘花)」という娘がいた。
おへちゃは一見して不器量な娘で、娼館では下女の仕事までこなす働き者である。身分を隠しているが、しかし、その実は6年前の田舎館城の戦いで死んだ千徳掃部の一族であった。
翌朝、伊勢屋には岩泉の盗賊が復讐のために押し寄せるが、疾風は首領のほか主だったものを斬った。
疾風は盗賊退治の調べのため、三戸城に招致される。しかし、そこでは北信愛の策謀により、東一刀斎という剣士と決闘させられることになったのであった・・・。

[この章の登場人物]
○おへちゃ=末摘花(すえつむはな)=千徳晶(せんとく・しょう) :千徳一族の娘で、天正13年の津軽大浦⇔南部信直の戦で家族を殺され、消息不明の兄弟を探すために自ら娼館に入った。23歳くらい。

○疾風(厨川五右衛門:推定30歳くらい) :武芸の達人。偵察のため三戸に入り、盗賊団を倒した。三戸城中では南部家の剣豪・東一刀斎を斬る。

○玉山小次郎(17歳) :日戸内膳配下の玉山重光(後の玉山常陸)の甥。内膳の密命により、疾風と共に三戸に向かう。

○三好平八(45歳) :葛西・大崎で木村吉清の家中が乱暴狼藉を働くのに嫌気が差し、一揆に乗じて落ち延びた中年の侍。うつ病気味であったが、疾風たちと行動を共にすることにより、自己を回復していく。

○市之助(葛西五郎:8歳) :葛西衆の縁者で、母を盗賊に殺されてしまい、生き残った姉を探している。三好平八を親のように慕う。

○雪絵(9歳) :市之助の姉。伊勢屋に売られるところを疾風に救われる。

○赤平虎一(あかひら・とらいち) :岩泉で疾風に殺された熊三の兄で、毘沙門党の首領。

○青龍(せいりゅう)、赤龍(じゃくりゅう) :毘沙門党の赤平虎一の腹心の部下。2人は兄弟である。

○北信愛 :陰謀に長けた南部家の執事(家老)。悪辣な罠を次々と繰り出す。

○北十左衛門 :北信愛の一族。後に南部家と絶縁し、大阪の陣では豊臣方として徳川&南部と戦った人物。この時期にはまだ20歳前後の若侍で、正義感に溢れている。

○大湯四郎左衛門昌次 :鹿角鹿倉館の主。南部家のために長い間戦ってきたが、北信愛の悪辣な政治姿勢に疑問を抱いている。後に九戸方に参じる北斗の英雄の1人。

[ミニ解説]
戦乱に翻弄される娘と、疾風との出会いと別れが主軸となるエピソードです。
「おへちゃ」は、旅の途中、道で拾った子どものために命を懸ける疾風に強烈に惹かれていきます。子どもたちの境遇と自らを重ね合わせたのかもしれません。
たった一夜の出会いですが、おへちゃは疾風の思い出を胸に刻み、この後の人生を生きてゆくことになります。

一方、三戸城では九戸侵攻の準備が着々と進められていました。
正月8日から9日の話ですが、12日の南部家の正月祝いに「九戸将監が参列しなかった」ことを叛意の表れとみなし、15日には南部信直は二戸宮野城の攻撃を開始します。17日には城攻めに掛かりますが、しかし厳寒のさなかということもあり、完全な失敗に終わります。

なお南部家の息の掛かった文書には、繰り返し「九戸が自らの野心から攻撃を仕掛けた」ことが記されていますが、大半は後世の作り話で、実際には常に先に三戸南部が攻撃を仕掛けたということが事実だろうと考えられます。
この正月の九戸攻めでも、戦の支度は1日2日では不可能ですので、事前に企図されたものと見なすことができます。なお、信直による正月15日の二戸侵攻はほとんどの文書ではその事実を削除されています。
17世紀半ば以降に、南部家の史実の捏造が図られ、都合の悪い事跡は調整・抹消されたようです。しかし、どう考えてもつじつまの合わない箇所が各所で出てきます。

この章の盛岡タイムスでの掲載時期は、6月中下旬以降となります。