◎夢の話 第587夜 刀
30日の朝5時頃に観た夢です。
瞼を開くと、目の前に壮年の男がいた。
旧日本軍の将校服を身につけている。頭は丸刈りだ。
その男がオレの目の前に、指揮刀を置いた。
「これはお前が持って行け」
え?どういう意味だろ。
「これで稲葉少尉を殺せ」
ここで、オレはこの男の名前を思い出した。
本間中将だ。
「私は敗戦の責任を取って、これから自刃する。それを見取った後、田代、お前が少尉のところに行き、ヤツを殺せ」
「何故ですか?」と訊きたいところだが、軍隊で上官を問い質すことは出来ない。下位の者は命令に服従するだけだ。
しかし、中将はきちんと説明を加えた。
「稲葉少尉は、少なくとも7人の兵を後ろから撃った。突撃命令に躊躇したというのが理由で、戦場では当たり前なのだが、ヤツは撃つのがひと呼吸ふた呼吸か早い。味方なんだから、すぐさま射殺する必要は無く、決心するまで数秒待ってやればいいのに、ヤツはそうしなかった」
戦場では命令違反または不履行があると、射殺されても文句は言えない。
敵がバラバラと弾を撃ち込んで来る中でも、「突撃しろ」と言われれば、行かなくてはならない。もし従わないと、後ろにいる上官から射殺されるから、誰でも前に進む。
相手が戦車でも、至近距離から撃つ上官よりは、まだ生き残る可能性があるから、必ず突撃するのだ。
「だが、あいつは姑息なヤツだ。兵隊を前に行かせて、自分は安全な後ろにいる。私はさらに後ろでそれを見ていたから、よくそのことを知っている。ああいうヤツはいざとなれば、さっさと降伏するものだ」
中将は稲葉少尉にそれをさせるつもりはないらしい。
「7人も部下を殺して置き、自分だけ捕虜になって生き残ろうというのは、許されることではない。現に私もこれから自刃する。下士官だって同じことだ。死んだ兵隊を供養するためにも、あいつをきっちり殺してくれ」
そういうことなら、異存はない。オレも稲葉少尉の振る舞いには辟易していた。
上にこびへつらい、下を見下す。
典型的な悪人だ。
中将はその場で割腹したので、オレは中将の首を中将の刀で切り落とした。
捕虜の首を切り落とすのは、専らオレの役目だったから、オレは一刀で務めを果たすことが出来た。
中将の亡骸に手を合わせ、オレはすかさず外に走り出た。
周りを見渡すと、平屋の建物が並んでいた。
「ここは捕虜の収容所だったんだな。だから前線ではなく後方にあったのか」
ゲートを走り出ると、遠くの方に数人が立っていた。
その向こうには、米軍の戦車が迫っている。
戦車はもはや50メートル先まで迫っていた。
手前の兵までは20メートルだ。
オレの目前で、友軍の兵たちが銃を放り捨て両手を挙げた。
降伏しようとしているのが明白だ。
その中に、稲葉少尉がいた。
「やっぱりな。怯むことなく前進しろと叫び、進まぬ者を射殺していたヤツがこれだ」
まあ、大体、そんなもんだ。
オレは駆け寄りざまに刀を抜くと、稲葉少尉を後ろから袈裟懸けに切り捨てた。
声は掛けない。だから、こいつは何故自分が死ぬのかも知らずに死んだことだろう。
「※△■○=!!!」
戦車の上にいた米兵が叫ぶ。
すかさず、機銃が火を噴いた。
オレは自分の体に十数発の弾丸を受けながら、その場に崩れ落ちた。
もちろん、刀は握ったままだった。
ここで覚醒。
母方の祖父は、ニューギニアの島に従軍したのですが、日本兵が2万数千人いたのに、降伏した時には1千人だったそうです。それが、翌年、復員船に乗るときには半減していたとのこと。すなわち生き残りは500人。
祖父は「常に敵の弾がどう飛んで来るかを考えねばならなかった。頭を使わないヤツは生き残れなかった」と言っていたそうですが、滅多に戦争のことは話さなかったらしい。
穴には入らなかったので、おそらく狙撃兵だったのだろうと思われます。
おそらく米兵のことも相当数殺しています。
大柄な人ではなかったのですが、身長よりもはるかに背が高く見え、威圧感が凄かったです。
祖父を知る人は口を揃えて、「怖かった」と言っていました。
その島では山のかたちが変わるくらい砲撃を受けたわけですが、祖父は海の中に逃れ、そこで三日三晩過ごしたそうです。海中から口だけを上に出して隠れているわけですが、海水温は体温より低いので、熱帯でも長時間は持ちません。
暗くなったら岩場に隠れ、陽が昇ったら、また水中に入った。
祖父はついに力尽き、海に浮かんでいるところを米兵に捕まり、捕虜になったらしい。
祖父は晩年、熱帯病の後遺症が出て、7年間寝たきりのまま、苦しみ抜いて死にました。
軽はずみに「教育勅語にも良いところがある」などと口にするヤツが目の前に立ったら、一切声を掛けずに殴ろうと思います。
その後で「これは祖父の分だよ」と言いますね。
ちなみに、その他にあと150万から200万発残っています。