◎南部大型 布泉
NコインズのOさんは、旧店舗の2階の箪笥に、「客には売らない品」を仕舞っていました。
一度箪笥の引き出しを開けて見せて貰ったことがありますが、母銭と見まごうような南部天保(49.6ミリ)や希少絵銭がびっしり入っていました。
0さんとは仲良くお付き合いさせて頂いたのですが、時々、資金調達が必要になると、その箪笥から数枚取り出し、私に売ってくれました。
これもそんな1枚です。
この「布泉」銭は南部領で作成されたと推定される品で、おそらくごく少数枚しか存在していません。
布泉銭は「南部の名品」として知られていますが、入手可能なものは小型の浄法寺の「写し」くらいで、中核となる品は入手に苦労します。
古色のある小型は希少と見なされているわけですが、大型はさらに希少です。
地金は秋田鍔銭の初期の大型のものに似ていますが、「布泉」という銭種は主に南部地方で好んで作成されていますので、南部説を取るようです。
収集を止めるので、これも売却しますが、もちろん、ネットで売るような性質の品ではありません。
これを鑑定出来る人は、昔からの収集家の中の幾人かということになります。
ちなみに、Oさんはビジネスが終わると、「やっぱりあの品を返してくれない?」と買い戻すこともありました。
「おいおい。俺は質屋じゃねえよ」と思ったりもしたのですが、そういう時は業者ではなくコレクター心理が働いていたでしょうから、快くお返ししました。
気持ちが良く分かります。
Oさんは亡くなる前に箪笥の品の大半を、関西のHさんに売り渡したようで、遺品には残っていませんでした。
数年前に、そのHさんも亡くなったので、Oさんの品が少しずつ地元に戻って来ているようです。
「Oさんしか持っていない」品なので、すぐに分かります。
おそらく、仰宝七福神銭もH氏さんに渡っていたのでしょう。
あれは「七枚揃ったら、あんたに渡す」と言われていた品なので未練が残りますが、しかし、それも過去の話になりました。
この布泉銭は「1枚モノ」に近いので、もちろん、安くはありません。
安く売却したら、古貨幣収集家の先輩方に失礼です。
「売れ残ったら、博物館に寄贈する」方針としたので、あれこれ悩む必要が無くなりました。
ちなみに、左側は南部地方の密鋳銭で、広郭手刔輪細縁という分類になります。
これが本当の意味での「南部民鋳」になります。
古貨幣で本当に資料的価値のある品は、入札やオークションで入手したものではなく、雑銭から拾った品なのですが、これも5百枚くらいの天保銭から選りだした品です。