◎夢の話 第1K65夜 アルマゲドンの日
冷蔵庫の夢の後、癒し水を備え、午前三時に眠り直した時に観た夢だ。
ちなみに、私は覚醒する直前の夢のほぼ総てを記憶している。
広大な山野の中に立っている。
高地にいるので、遠くの山々や原野がすぐ近くに見える。
山の向こうには海原が広がっているので、海からそれほど遠くない場所らしい。
息を飲んで眺めていると、天空に光が走った。
「大火球だ。前にI県で見たものより大きいぞ」
赤い光の玉は海原の向こうに消えて行った。
「ずどどどどどん」という重低音が響く。
ありゃ。地表まで落ちたのか。
地鳴りがして、地面がぐらぐらと揺れる。
「とんでもなく大きな隕石が落ちたのだな」
思わず頭の中に「恐竜たちが雄叫びを上げて、津波の中に飲み込まれる」場面が広がった。
もしかして、あれと同じことが起きるかもしれん。
海原の向こう側に黒い壁が高く聳え立った。
「おお。あれは津波じゃないか。波の高さが何百メートルにも達して居そうだ」
こりゃ早く高いところに逃げなくては。
今いるところも割合高い場所だが、高原ではなく山の上まで行く必要がありそうだ。
急いで斜面を登り始める。
周囲には、沢山の観光客がいたのだが、あの大火球のことには気付いていないようだ。
「逃げた方がいいよ。大津波がやって来るもの」
声を掛けたが、皆が本気にせず笑っている。
「まさかそんな。ここは高原だよ」
「変な人だな」
これはいつも通りだ。あの世のことも天変地異のことも、自分の身には起こり得ぬと思っている者の方が多い。
ま、俺はそういう者は当人の好きに任せることにしている。要するに、「ひとまず言ってみる」くらいの助言しかしない。自分のケツは自分で持てよな。
もちろん、何人かは気が付いており、急いで俺に従った。
一緒に走り始めたのは、若いのが五六人と壮年の男が一人だった。
「あの感じでは、あと二百㍍は標高の高いところに登る必要がありそうだよ」
「間に合いますか?」
「そう信じて上るしかないさ」
皆で山道を走る。
数分もせぬうちに黒い色の波が上がって来た。
まさか、水が坂道を上って来るとは、これまで想像すらしたことが無い事態だ。
ちらと遠くを望むと、山々の多くが濁流に沈んでいた。
「これは地獄か。あるいはこれがアルマゲドンってやつなのか」
総ての生き物が流され、地上の物は跡形も無くなる。
必死で駆け上がり、山の頂上に着いた。
俺について来られたのは、若者が四人だった。
「もうここまでだね」
下を見ると、津波がどんどん駆け上がって来るのが見えた。
足元の岩に波が押し寄せる。
「ざぱん」と音がして、頭から水を被った。
冷たい。
頭の中で「これで俺も流される」と覚悟した。
だが、数秒後に目を開くと、俺はまだ山の頂上にいた。
水の流れに一瞬体が浮いたのだが、津波は頂上を通り過ぎて、向こう側に流れ落ちて行った。
俺は木の枝に引っ掛かり、ちょうど具合よく岩の上に落ちた。波に持って行かれずに済んだのだ。
周りを見渡すと、その場に残っていたのは、男女一人ずつだけだった。
「大丈夫か」
「はい」
皆が濡れ鼠の状態だった。
「酷い目に遭ったな。まさにこの世の終りじゃないか」
下にいた人たちは皆流されたことだろう。
この先どうすれば良いのだろう。さすがに途方に暮れる。
若者たちに眼を向けると、一様に不安げな表情をしていた。それもそうだ。大人でも耐えられない。
そこで俺は彼らを励ますことにした。
「どんな目に遭っても、私らは生きていたじゃないか。生きていれば、必ずチャンスはやって来るんだよ」
俺は自分を励ますために、もう一度その言葉を繰り返した。
ここで覚醒。
従前は「自分がいる建物が崩れる」夢を観たが、これは「健康が損なわれる(体が壊れる)」予兆の夢だった。
病気が進行し、さらに深くなると、津波など天変地異で地球規模の破滅がやって来る夢を観るようになった。これも病気の進行に関係している。
しかし、ひとつの光明は、「どの夢でも危機を乗り越えた」ということだ。
体のことにせよ、人事のことにせよ、捨て鉢にならなければ、必ず再起のチャンスは来る。
やはり「癒し水」を備えた後は、軌道が修正されている。これから必ず危機が来るが、この夢が「危機を乗り越えられる暗示」だと思って、しぶとく行くことにした。