◎夢の話 第1K64夜 冷蔵庫
十月二十日の午後十一時に観た夢です。
知人の家を訪れると、家の中にやたら大きな冷蔵庫があった。
「随分大きいね。何に使うんだよ」
「色々とね」
私はこのタイプの業務用冷蔵庫に詳しい。
「コイツはマイナス四十度まで温度を下げられるだけでなく、中の気圧も下げられるんだよ」
要はフリーズドライを作れるということだ。
知人が真面目な顔をしているので、ちょっとからかってやれ。
「死体を処理するのが楽になる。乾燥させた後でハンマーで叩けば粉々に粉砕できるからね」
我ながら酷いブラックジョークだ。
だが、知人はニコリともしなかった。
すると、突然、その業務用冷蔵庫の中から「ドンドン」と音がした。
「おいおい。まだ死んでないようだよ」と冗談を言おうと思ったが、知人の表情が一層青黒くなったので、これは言わずにいた。
「冷蔵庫って頻繁にゴトゴト音を立てるんだが、あれは何なんだろうね」
友人は「モーターが回っていて、その回転が変わるか、向きが変わるかするらしいよ」
なるほどね。
空気が悪くなったので、「コイツはホラー小話のネタになりそうだな」とトボけることにした。
例えばこんな話だ。
ある男が友人の家に行く。するとガレージで物音がしたから、そっちに回ると、そこには大きな業務用冷蔵庫があった。
「どうしたんだ?」
「この冷蔵庫のレンタル屋をやろうと思ってね」
なるほど。料理や野菜の冷凍パックを作って貰うのか。
「おまけにフリーズドライまで作れる」
「フリーズドライなら原型を保てるから、色々と使い道があるよね」
剥製が簡単に作れる。亡くなったペットを生前の姿のまま留めることも可能だ。
ま、食品と一緒には扱えないだろうが。
すると、友人が言った。
「どっちかと言えば、商売になるのはそっちの方だな。小型犬なら二十万か三十万でもニーズがある。飼い主はペットに何時までもそのままの姿でいて欲しいと思うらしい。その後で生前の可愛らしい姿に化粧すれば、さらに数十万」
「人間なら二百万か三百万。あるいはそれ以上だろうな」
地下墓地として部屋を作りフリーズドライの故人を安置する。その部屋を訪れると家族は生前のままの故人に会えるというわけだ。
「ま、趣味が悪いけど」
ここで男が思い付く。
「死体の処理をしてくれる裏のビジネスがあるが、あれは七百万くらいが相場だ。うっかり殺してしまった死体を跡形も無く片付けてくれるわけだが、この方法ならフリーズドライにして、さらに粉末に砕ける。乾燥させてから破砕機にかければいいんだからな。あははは」
で、男はひとしきり冗談を言って帰ろうとする。
だが、ガレージを出ようとすると、後ろの大型冷蔵庫から「ガトゴト」と音が響いた。
まるで、急に目覚めたヤツが外に出ようと壁を叩いているような音だ。
男はその音を聞いたが、聞こえていないふりをして、外に向かう。ここは気付いてはならんところだからだ。
私はここで話の腰を折った。
「てなホラーはどうだ」
すると、知人は先ほどとは打って変わって、顔に笑みを浮かべていた。
「そりゃ面白いね」
知人は手で冷蔵庫を指し、私を導く。
「ちょっと中を見てみる?」
すると、ほとんど同時に、冷蔵庫の中から「ううう」という女の声が聞こえた。
ここで覚醒。
軽くするために二重に記したが、実際の夢は重苦しい内容だった。
何せ「壁を叩く音」が実際に聞こえていた。
冷蔵庫ではなく、冷蔵庫の近くの壁が「ドンドン」と音を立てたので、脳内でそれを変換したのだろう。唸り声も聞こえていたので、こんな風におどろおどろしい展開になった。
つい居間で寝入ったので、「癒し水」を備えるのを忘れていた。
あの世の者のために枕元に備える水のことは「癒し水」と言うらしい。夢の中で誰かがそう言っていた。改めて水を備えて寝直した。