日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎音無しの影

◎音無しの影
 二日前のこと。
 夜になり、娘を迎えに駅まで行った。
 駐車場に戻り、鍵を娘に渡し、自分は後から歩いた。これは足が悪く、ごくゆっくりとしか歩けぬためだ。
 駐車場から家までは六七十㍍あるので、暗い夜道を一人で歩いた。灯りは街灯がポツンポツンとあるだけ。

 ゆっくり歩いているうちに、ふと「自分の影が二つある」ことに気付いた。街灯の灯りはひとつだから、二つ出るわけがない。
 本来の自分の影に加えて、少し小さいのが横に出ていた。
 「ははん。出たな」と思い、後ろを見ずに声を掛けた。
 「家までついて来るんじゃねーぞ」
 すると、何だか身じろぎのような気配があったので、後ろを振り返ると、そこに男がいた。
 「あ。こりゃどうもスイマセン。てっきり幽霊かと思って」
 男は小さく頷くと道別れのところで別の方角に行った。

 後になり考えたが、途中まではそこに人がいるとはまったく気付かなかった。
 足音や衣擦れのような音が塵ほども無かったからだ。
 要するにその男は「足を忍ばせて歩いていた」ということだ。
 前に影が出るほど近くだから、おそらく二㍍くらいしか離れていなかったろう。

 もしかして強盗の類だったかもしれん。
 この辺は空き地が多かったり、ほうぼう建築中だったりして、夜道が暗い。最寄りのコンビニにも、時々、強盗が入るらしく、しょっちゅうパトカーが来ている。
 こんな風に後ろから来るヤツは、いきなり後頭部を殴り付けて、相手が倒れたところで財布を取るタイプだから、早めに気が付いて良かったのかも。