◎夢の話 第699夜 夜道に独り
20日の午前2時に観た夢です。
我に返ると、俺は暗い夜道に立っていた。
俺が立っていたのは6メートルを少し超えたくらいの舗装道路の端で、この道の両側にはたぶん林が広がっている。
だが、薄暗いせいで、ほとんど何も見えない。
次第に目が慣れて来て、周囲の状況が分かるようになって来た。
やはり、俺がいたのは、田舎の県道みたいな道路の上だった。
「何でまた、こんなところに」
皆目見当がつかない。
少し離れたところに、コンビニみたいな建物が建っている。
灯りが点いていないので、あくまで「みたいな建物」で、平屋の箱型のつくりだからそう思ったのだ。
とりあえず、そっちの方に行ってみる。
建物はやはり商店だったが、かなり前に閉店したらしく、廃屋同然だった。
窓が開けっ放しで、ガラス窓が壊れたままだ。
おそらく中は埃だらけだろう。
「これじゃあ、仕方ないな」
携帯を持っていないし、誰かに連絡を取ろうとしても、ここには何も無い。
仮に店が開いていたとしても、今は公衆電話がなく、電話も掛けられないわけだが、店員に周囲の状況を訊くくらいは出来たろうに。
仕方なく道の中央に出て、遠くを望んで見るのだが、数キロ先まで真っ暗だった。
後ろを向いても、やはり同じ。
「どういうわけで、俺はここに来ることになったのだろう」
ここに来た経緯を考えてみるが、まったく思い出せない。
それどころか、前の日に何処にいて何をしていたのかすら、何ひとつ思い出せなかった。
「女房や子どもたちはどうなった?」
自問するが、その女房や子供たちが、いったいどんな顔をしていたかを思い出せなくなっていた。
もちろん、名前も分からない。
「そんな馬鹿な。俺は認知症になってしまったのか」
毎日、夕方になると、市役所が流すアナウンスが響く。
「ボーサイ放送です。タナカ東のドータラさんの行方が分からなくなっています」
散歩に出た高齢者が、自分の家を忘れてしまい、帰れなくなるというケースだ。
あれと同じことが俺にも起きているのか。
「怖ろしいけれど、それじゃあないような気がするなあ」
つくづくと考えて、ハッと気がついた。
「なるほど。俺はもう死んでるのか」
死ぬと頭脳を失くすから、ものを考えられなくなる。
思い出せるのは、心の記憶だけだ。
「さっき見たコンビニみたいな店は、俺が子どもの頃を過ごした実家がデフォルメされたものだものな」
すなわち、この世界は、俺が作り出し、そこに囚われている世界だった。
要するに、俺は自ら望んでここにいるのだ。
「でも、一体どうやって、ここから抜け出ればいいんだろ」
虫の声ひとつ響かぬ真っ暗な闇の中で、俺は茫然とその場に立ち尽くす。
ここで覚醒。