◎夢の話 第1117夜 北の街にて
十日の午前三時に観た夢です。
所用があり、北国の街に泊ることになった。
人口が四五万ほどの小さな街だ。
一応、駅前に繁華街らしきものはあるが、地方都市の多くがそうであるように、半ばはシャッターが下りている。
俺は交差点の角にある宿屋に入った。
旅館か、もしくは民宿くらいのつくりになっている。
二階の窓を開けると、すぐ前に交差点で、片方がもう片方の道路の下を潜る立体構造になっていた。
駅からこの宿には上の道を歩いて来たらしい。
そのまましばらくの間、街の景色を眺めた。
すると、俺が通って来た同じ道を数人の人たちが歩いて来る。
その後ろにも人が続いているようだ。
五人、十人、二十人と次第にこちらに向かう人の数が増える。
あっという間に道が人で溢れた。
「おいおい。どこから湧いて出たんだろ」
それに、どこに行こうとしてるんだろ。
こんな田舎町に、集客力のあるポイントがあるとは思えんが。
あっという間に縦も横も道が人で埋まり、人の動きが止まった。
「そりゃ、こんな狭い交差点だもの。進めなくなるはずだわ」
だが、一体何のために。
宿の真下の道がいっそう込んでいるようだから、身を乗り出して下を覗いて見た。
すると、真下の群衆が一斉に俺のことを見た。
ここで俺は目下の状況を理解した。
「こいつらは俺を目当てに集まって来ていたのか」
なら人間じゃねえや。
ここで旅館全体がぐらぐらと揺れ始めた。
真下に集まった群衆が、宿の中に入ろうと、扉どころか壁まで押しているのだった。
何千という手が木造の建物の壁を押せば、そりゃ建物全体でも揺れる。
「おいおい。俺は生きた人間だから、お前らとは毛色が違って見えるだろうが、俺に縋りついたって、お前らの境遇は変わりはしないぞ」
ま、見えるのが俺一人で、自分の隣にいる者ですら感知出来ぬのだから、寄り集まるのも無理はない。
「だが、こんなに多いとさすがに対応に困る」
何千もの手が自分の体にかかる状態を想像して、俺はぞっとした。
ここで覚醒。
目覚めて、すぐに納得したことがある。
かつて、心臓が止まった数分間を経た後、どこかあの世と常に繋がっている部分があるらしい。接点があるから、それを感じ取って幽霊が集まる。
夢だけではなく現実の話だ。
現に昨夕、道を歩いていた時にも私の後ろには数十人の気配があった。
縋りつくだけではなく、たまに悪さを働く者がいるから、煩わしくて仕方がない。