◎生涯最高の出来の「もつ煮込み」
家人は、時々、自分の食べたい料理の素材を買って来て、ダンナの前に「ドン」と置く。
「何だか※※が食べたいなあ」
「作る」とも「作って」とも言わず、「食べたい」と言うだけ。
あとはダンナの自己判断になるらしい。
そのまま放置すると、冷蔵庫の中で劣化し、結局は捨てることになる。「どうするのか」と眺めていると、自分では何もしない。
ま、この煮込みのようなのは「オヤジ料理」だから仕方がないが、せめて「作ってね」(笑顔)くらいは言うもんだよ。
素材が豚のシロだったので、もちろん、煮込みになる。
煮込みは豚の大腸が一番うまいと言われるが、やはり私もそう思う。
また、「煮込みを制する者は居酒屋を制す」で、つまみに上手な煮込みがあれば、それだけでオヤジ客が足を運ぶ。
ところで、前に一度、「絶品の味」が作れたことがあるのだが、例によってレシピを憶えちゃいない。煮込み系はありあわせの具材を使うからだ。
まずシロの「茹でこぼし」からだが、これが時間が掛かる。
1、2時間茹でて、そのお湯を捨て、もう一度茹でる。
また1、2時間茹でたら、そのお湯を捨てる。
これは脂を落とすのと、腸壁にこびりついた老廃物を徹底的に落とすためだ。
ホルモン鍋なら、ホルモン臭さが旨味になったりするが、煮込みは違う。
この先が重要だが、今回は野菜を下茹ですることにした。
ニンジン、ゴボウ、ダイコンを使うわけだが、いずれも個性が立っている。大根をそのまま入れると、料理全体がダイコン風味になってしまう。
豚汁みたいな鍋料理はそれでよいが、だがやっぱり煮込みはシロが主役だ。野菜はあくまで脇役に徹してもらう。
野菜の風味なら、むしろ野菜コンソメを少し入れた方が、調和が取れる。
要はバランスということ。ニンニクは控えめに少量使うが、これもバランス保持のため。
コンニャクのことを忘れたが、これは別に無くとも良い。
豚シロを新しいお湯に入れ、味付けをして行くが、調味料は酒、みりん、醤油を昆布出汁で割る。また、刻みショウガを入れた後に、砂糖を入れる。これは必ず赤ザラメか黒糖だ。
この甘みの選択で深みに違いが出る。
この日は黒糖で、きっとこれが幸いした。
ここからがまた長く、本来の実力が出るまで二日は掛かる。
「とにかく煮込む」ことが必要だ。
イタリア人シェフが「ミラノ風はとにかくじっくり煮込むこと」と言っていたのを思い出すが、やはり味が全然変わる。
出来上がりが近くなってきたら、白ワインを加えるのだが、これで上品な味になる。今回は白ワインが無かったので省略。
翌日になり、家人が試食したら、「もの凄く美味しい」とのこと。少しだけ試食すると、実際、上手く行っていた。
思わず丼飯の上にぶっかけて食べた。
ちなみにホルモン系は高リンだから、禁忌食品になっている。
おまけに翌日が検査だったが、レシピを忘れぬために食っといたほうが良いと思い、眼を瞑って食べた(言い訳だ)。
「もしかして居酒屋で天下を取れないか」とも思うが、商売でこんなことをやっていたら、時間と費用が掛かりすぎると思う。
プロがプロたる所以は、ごく短時間で、費用を掛けずに、さらっと完成させるところにある。
どんなに拘っても、素人は素人で、スタンス自体が違う。
ここはプロの技術を「こっそり盗む」のが正解だと思う。