◎病棟日誌 悲喜交々 7/8 「今日もまた サントワマミーを 口ずさむ」
この日は定期検査の日で、レントゲン、心電図があった。
治療直後にレントゲン室に行き、機器の前に立つ。
技師が「息を吸ってえええ」と言うので、深呼吸をしようとすると、その途端に目の前に火花が散って、真っ暗に。
自分は「いつもどこかツイてる」と思うけれど、気を失って倒れた先が、すぐ横にある仰臥撮影用の寝台だった。
コンクリの床に倒れ、頭を打って亡くなった患者が、当方の病棟にもいたらしいが、あれはこういうことだったかと思い知った。
数分後に目覚めたが、そこで技師に「(病棟に帰るために)看護師を呼びますか?」と訊かれた。
「あ。大丈夫です。息を吸って眩暈がしただけですから」
足元が覚つかぬが、なるべくしっかりしている風を装って、そそくさとレントゲン室を出た。
戻り路では、定番の「目の前が暗くなるううう」とサントワマミーを口ずさんでいる。
これもいつものことだ。
画像は病院食。
鶏のソテーはふた口で終わるので、ご飯の処理に困る。
たんぱく質の多くをご飯で摂取するから、ご飯だけは丼に八分入っている。
デスクワーカーの一食分としては、これくらいで必要十分な食事量ということだが、おかずは病気になる前の三分の一以下だと思う。
おかずを沢山食べるから、ご飯などのエネルギーは過剰になる。
健康な人にとっては、「ご飯やパンは太る原因」の位置づけだが、そもそも脂質などを摂り過ぎているからそうなのであって、エネルギーは脂ではなく糖質で摂った方が代謝が良い。
特に脳へのエネルギー補給にはご飯経由のブドウ糖が良いそうだ。
ま、この分量(幼稚園サイズ)で食べる分には、普通人ならどんどん痩せて行く。病人は運動をしないので、これで平行線だ。
さて、九十台の父は介護施設にいるが、退屈して、時々、駄々をこねるらしい。当方は元々、父母の話の「聞き役」だったので、話し相手になってやりたいが、この三年はコロナの影響で面会が出来なかった。
今もたぶん制限があり、身の回りの世話をする者でないと会わせては貰えないのではないか。
加えて、今の当方はもはや父の先を進んでいる。
新幹線に乗ることも、車で長距離を運転することも出来なくなっている。
郷里の親族には、「この後、もう俺は田舎には行けないと思ってくれ」と伝えてある。
父にはもはや二度と会えぬかもしれん。
時々、書籍を送ったりもしているが、当方は父の理解者なので、父の方もさぞ連絡を求めているだろうと思う。
それが物理的に無理な状況だ。
思案したが、改めて「施設の中では父も新聞を読んでいる」と思い直した。
なら、その新聞に当方からのメッセージを載せて貰えれば、父に届く。
早速、数日前に編集に連絡し、「体調のこともあり、軽いものから送ります」と伝えた。
で、数本ほどショートショートを送った。ごく軽い夏向きの話だ。
今はそれを書く程度の体力しかない。
夏向きの話が終わったら、その次は昭和の話で、父の周辺に素材を取る。それは父から聞いた話だから、その中に息子なりの解釈を入れ込もうと思う。
当方はいざ腹を括ると、行動は迅速だ。
迷いがなくなったので、唸るような鉄拳を振るおうと思う。
「ヤマゴン魂」ここにあり。
戦いを諦めぬうちは負けたことにならないわけで、当方はこれまで一度も負けたことが無い。
「死んでもやる」と思ったところで、「それももうじきだからな」と後ろからアモンが囁いた。
そんなの知ったことか。