夢の話 第三九五夜「憑依」
帰宅後 二日目から徐々に疲れが出て来ました。これは眠れずにうつらうつらしている時に観た夢です。何度も繰り返し観る夢で、ここにも複数回書いています。
高速道に乗り、仙台から東京に向って走っている。
時刻は夜の十時頃だ。
今はちょうど福島県のS市の手前に差し掛かっている。
インターチェンジの看板が見えて来た。
ここで唐突にカーナビが声を上げた。
「六百胆茲鮑犬剖覆ります」
え。ハイウエイの外に出ろって言うの?
「東京に向っているのに、ここで下りるのは遠回りじゃないのか」
でも、ちょうど今、オレは腹が減っていた。
「ま、まだ十時過ぎだから飯屋も開いているだろ。ラーメンでも食べるか」
そう言えば、仙台に行く時にも高速を下り、ラーメン屋に寄ったんだったな。
カーナビの指示に従って、高速を下りた。
十五分ほど走ったが、国道沿いの食堂の類は皆閉まっている。
数日前に寄ったラーメン屋ももう営業を止めていた。
「そうか。ここは田舎なんだな。店は早く閉まる」
仕方ない。街まで行くか。
S市の市内に入る。
「三百胆茲鮑犬剖覆って下さい」
カーナビが指示を出す。
どこに居るかが分かるように、このままカーナビを点けとこう。
無視してればいいんだし。
なるべく東京に向かう道筋で、ラーメン屋を探す事にした。
「三百胆茲鮑犬剖覆って下さい」
また左かよ。
交差点を曲がって、左に進む。
東京に向かって左だから、東の方向だ。
すなわち、直線コースからはどんどん離れて行く。
そのまま進行すると、また指示が入る。
「三百胆茲鮑犬剖覆って下さい」
え?また左?
元来た方向に戻ってしまうんじゃ。
しかし、次の信号で、指示の内容が替わった。
「三百胆茲魃Δ剖覆って下さい」
ようやく右か。遠回りして、高速の方に向かうのだな。
「三百胆茲魃Δ剖覆って下さい」
はいはい。
「三百胆茲魃Δ剖覆って下さい」
ここでオレはカーナビに文句を言った。
「おい。ここはさっき通った所だろ。同じ所を八の字を書くように回ってるんじゃないのか」
オレはさっきここを通った時に、同じ店の看板を見ていた。
正確には同じ場所を二度通っているのではなく、これが三度目だった。
「いい加減にしろよ。もう飯はいいから、高速に戻れ。この馬鹿」
機械に向って悪口を言っても仕方ないが、この状況では言わずにはおれない。
カーナビは、まるでオレの言葉が分かるかのように沈黙した。
画面の地図を見ると、市内をぐるぐると走り回った挙句、高速からは大きく遠ざかっていた。
「ち。これじゃあ、一時間も余計に掛かってしまう」
カーナビを「距離優先」に切り替えた。
すると、この時とばかりにカーナビが口を開く。
「三百胆茲鮑犬剖覆って下さい」
「始まりやがったな。今度はきちんと先を示せよ」
この頃になると、オレの車は市街地を外れ、灯りの少ない場所を走っていた。
暫くの間、周りは田畑だったが、次第に山林の中に入って行く。
まあ、これは「距離優先」の時にはよくある。県道や市道も使うし、農道を薄く示す時だってあるからな。
しかし、道はどんどん狭くなり、片側一車線から、六メートル道路へと変わる。
「何だよ。街灯も無くなって来たじゃないか」
人家はおろか、両脇は手の届きそうな近くに雑草が生い茂っている。
次が坂道だ。
オレの車は斜面の片側を切り崩して造った坂道をじりじりと上った。
「これじゃあ、先は行き止まりになってしまうかもな」
対向車が来たら、それ違う事も出来ず、ただ後退するだけだ。それくらいの細道だった。
暗い中をバックするのはしんどいので、行ける所まで行き、方向を替えられる場所があったら、そこで戻ろう、とオレは決心した。
程なく、道の先に小さな灯りが見えて来た。
電柱の上に付いた白熱灯の光だった。
「今どき珍しいくらいレトロだな」
すぐにカーナビが叫んだ。
「目的地に到着しました。音声案内を終了します」
おいおい。
ここで白熱灯の下に到着し、その先が見えて来た。
なんと、オレの車の前は行き止まりで、その先は荒れ果てた墓地だった。
墓石が幾つかバラバラと倒れているのが見える。
「う。こりゃ不味い」
通常、墓地は最も静かなところだ。
死者がきちんと祀られていれば、異常なことは起こらない。
だがここは違う。
訪れる者のない、荒れ果てた墓地なら、誰でも「何とかしてくれ」と叫ぶだろう。
「でもそれはオレの務めじゃないぞ」
オレは大慌てで、車をバックさせた。
オレが最もツイていたことは、坂道を後ろ向きに下る際に、崖から転がり落ちなかったことだ。
その後、オレはひと月の間に二度も、信号待ちで追突された。
これではかなわんので、八幡様に行き、お祓いをして貰った。
その後、ようやく極端な異常が起きなくなった。
ここで覚醒。
これと同じ夢を繰り返し観ます。それもその筈で、6年くらい前に実際に起きたことです。赤信号で停まると、バックミラーに後ろの車がブレーキを掛けずに突っ込んで来るのが見え、その都度戦慄しました。