◎円穴 松魚籃恵比寿について(付記)
この品の初発は幕末後期から明治初くらいと推定され、古い銭譜にも掲載があります。
江戸の銭譜にも拓影の記載があったと思いますが、既に原本がありませんので、記憶のみです。
当品は青寶楼が亡くなった後に世に出た品のひとつで、都内Oコインで求めたものです。
店主は「これは初鋳だから、買って置いた方がいいよ。初鋳はほとんど出て来ないもの」と勧めました。
その時の説明が概ね下記の通りとなります。
・初鋳は輪から中央にかけて盛り上がっている。このため、内郭部分が最も高いから、指の腹で面背を触るとすぐに分かる。
・明和当四銭を鋳潰して作った。
・次鋳は、初鋳の拓本を基に、新たに木彫りの母銭を作り、これで作った。このため、「中央が盛り上がっている」という特徴が概ね消失した。
・ただし、次鋳以降も「明和当四銭を鋳潰して作る」ことが踏襲されたから、外見上は区別がつかない。入札に出ている品はほぼこれになる。もし「写し」であればかなり良い方だが、もう初鋳次鋳の区別のつく収集家は少ない。
それ以後、長い間、これと対になるはずの大黒を捜して来たのですが、結局見付かりませんでした。同型の品は時々、入札やオークションに出ていますが、いずれも平面的です。
時々、「知っている人がどれくらいいるのか」を確かめるために、入札に出し、反応を見たのですが、敏感な反応があったのは20年くらい前までです。
徐々に知見が失われて来ているのだろうと思います。
型がそっくりな品が沢山ありますので、ひとつ一つ見極めながら捜すのは大変です。
ちなみに、過去に「状況を測る」ために入札に出すことを良くやりました。
調査目的なので、自分自身で落とすことになります。売買そのものが目的ではなく、反応を見るためでした。販売を目的としたものではありません。
不落になった方は「買えるかも」と思っていた筈ですので、さぞ落胆されたと思います。
この場を借りてお詫びします。
例えば、江刺銭についても、選り銭をして研究している方はごく数人で、他は入札で「珍しそうな品」を買う程度だということが今回分りました。難獲品があり、今回入手した方はラッキーです。
ネットの普及とオークションにより、自宅の机に座っていながら、簡単に収集を進めることが出来るようになったのは良いことですが、その反面、知識はほとんど伝わらなくなっているようです。
従前は、古道具点に日参し、店主と話をして、様々な無駄知識を得たものですが、今は古道具店もリサイクルショップにかたちを変えており、「無駄話」が出来なくなりました。
参考図は、この系統の品に似せて作ったと思われる恵比寿銭です。
製作から見て、昭和の品と思われますが、詳細は分りません。
私は収集を止めてしまいますが、知見が継承され、これが一瞥で「全然違う」と見えるようになって欲しいと思いますので、今回、本銭を買われた方にオマケとして贈呈することにしました。