日刊早坂ノボル新聞

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◎遂に完成形に達する 「もつ煮込み」

遂に完成形に達する 「もつ煮込み」
 上の叔父が馬喰で、牛馬のことにはもちろん、精通していた。その叔父が時々家に来ては、すき焼き鍋を使って「もつの煮込み」を作ってくれた。これがとんでもなく美味く、本来は酒のつまみなのだが、小学生だった私でも喜んで食べた。
 あの味を再現したいと思い、数十年研究して来たが、叔父の味には到底近付けない。叔父の作る煮込みは、牛ホルモンだったり、豚白もつだったりその都度内容が違っていたが、馬喰の叔父と同じ素材が手に入らないこともある。
 鶏もつに至っては、鮮度が生命線だから素人には難しい。

 最初のステップはそこで、「叔父と同じものは作れない」が、「美味い煮込みは作れる」と割り切ったことだ。
 全然、別の味だが、誰が食べても唸る味を目指そう。

 で、基本は「出汁を丁寧に作る」ことだ。
 素材の野菜の下ごしらえを先にして、その時に出た野菜くずを利用して野菜だしを採る。これには、昆布と鰹節の出汁を一緒に採っても良い。北奥の出汁の採り方は、昆布と煮干しなのだが、こともつに関しては鰹を使った方が美味い。
 また、鶏ガラを焼いて、これのスープを作るが、大切なのは脂をきちんと除去することだ。鶏の臭みは不要だし、脂にはリンが多く含まれる。

 その間、豚シロを二回以上茹で零しにする。茹でて脂を落とし、そのお湯を捨てることを繰返し、雑味を除去する。
 もつ鍋と決定的に路線が違うのは、もつ特有の臭みを排除することだ。(そのことで、もつ独特の「味が薄くなる」と感じる人もいると思う。)
 状態にもよるが、最低二回の茹で零しは必要で、私はさらにもう一回お湯を捨てる(リン除去)。
 「出汁を別に採る」必要があるのは、このためでもある。

 具材は普通に店で出す「煮込み」で想定されるものを使っていたが、これまではどうにも「芋の子汁」の味に近かった。
 あっさりしているから、牛蒡や蒟蒻を入れると、その影響が強くなるためだ。とりわけ牛蒡の自己主張はもの凄い。
 今回、気付いたのは、「具材を増やすのではなく、減らすことでもつの味が活きる」かもしれんことだ。
 そこで、豚シロ以外の素材を減らし、人参と大根だけにした。
 これで煮込んでみたら、「過去最高の味」になった。
 「これはOKだ。店で出せる」と納得した。

 後で豆腐を追加したが、これももちろん美味しい。
 出汁を取った時の野菜くずは勿論捨てて雑味を除去しているが、もしかすると、具材として入れた人参や大根も全部引き上げて、豚シロと豆腐だけの煮込みにするのもありかもしれん。

 さらなる課題は、「味噌煮込み」「酒粕味の煮込み」などのアレンジだと思う。いずれも店で食べたことがあるが、味噌や酒粕はそれ自体が強い風味があり、もつと両立させるのが難しい。
 父とも「煮込みのつくり方」を協議したことがあるが、「酒粕は味づくりが難しい」という意見だった。

 上の叔父が死んで三十年経つが、ようやく胸を張って仏壇に供えられる。
 「俺の煮込みもなかなかのもんでしょ」
 これから体調を整えて、来春の彼岸には、親族全員の墓参りに行くことを目指そうと思う。 

 ちなみに私はこの手のことには病的マニアックなので、かなり美味いよ。殆どの人がこれまで食ったことが無い水準だと思う。
追記)系統がまるで違うが、やはり上の叔父のがもっと美味かったと思う。こちらは上品な味だが、叔父のは粗野でとにかく味が濃かった。子どもでもどんぶり飯をお替りした。