日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第153夜 プロレスの夜

朝、妻や子どもたちを送り出した後、1時間ほど寝入った時に見た夢です。

オレがいるのは、後楽園ホールだ。
この夜には、スタン・ハンセンさんが試合に復帰するという。
試合はタッグマッチで、片方がタイガー・ジェット・シンさんとハンセンさん。もう片方が、馬場さんとミル・マスカラスさん組だ。
馬場さんは、もう十年も前に亡くなっているので、リングに立つのはアンドロイドだ。
現在の技術では、誰かが別室で両手両足に装置をつけ、アンドロイドを自在に操れる。両目にはめ込まれたカメラを通じて、相手を識別できるし、ドライバーが操作したのと寸分の違いが無い動き方をしてくれるので、試合に支障は無い。
これを作ったのはゲーム屋で、今日の同窓会みたいな試合を組んだのもその会社だ。

オレは控え室で、試合の準備をしている。
前座で、客席を沸かすのがオレの仕事なのだが、マスカラスさんが飛行機の事情で来れなくなり、急遽、その代りにメインイベントに立つことになったのだ。

参ったな。
レスラーには、ハンセンさんみたいに本物のアスリートもいる反面、興業なので、ギミックもいるし、コミックもいる。
オレは試合中に、客席につばを飛ばしたりして、客を巻き込むのが仕事だ。
なんたって、オレは心臓病で、医者から「過激な運動を控えるように」と厳命されている。しかし、これがオレの仕事だし、リングで死なずに務めを果たす方法を考えているうちに、行き着いたのがオレのスタンスだったのだ。
もはや生き様と言ってよい。

リングシューズを履いていると、ドアから大男がのっそりと入って来た。
「おいエイゲン。マスカラスが来ないんだって?じゃあオレが出てやるよ」
あ、キムラさんだ。
助かったあ!
(でも、この夢の中のオレって、やっぱりエイゲンさん役なのね。もちろん、エイゲンさんも大好きですよ。)

ハンセンさんが70歳くらい、シンさんは80近い(?)が、ひとつ間違えば、オレなんか殺されてしまう。シンさんは、いまだ現役なわけだし、皆プロ中のプロだ。つい本気になってしまうことだってあるだろうし。

「お前はアニキの人形を操作しろよな」
キムラ先輩のお達しで、オレは馬場さんのアンドロイドを操作することになった。

リングの上に立つと、やっぱり同窓会のようだ。
観客は熱狂し、それぞれの選手の名を叫んでいる。
ハンセンさんは観客の声を聞くと、眼の色が変わり、みるみるうちに昔の表情に戻った。
「ショーヘイ。カモン!」
ハンセンさんが、オレを呼んでいる。パートナーを取り替えろと言っているのだ。
隣のキムラさんがオレに頷く。シンさんは、オレたちには関係なくサーベルをがしがしと齧っていた。
このシンさんもプロ中のプロなんだよな。
悪役人気が高まってきた頃、好意的なスタンスでインタビューに来たアナウンサーを、シンさんはサーベルで血だらけにした。これぞヒールだ。ブッチャーさんとはひと味違うぜ。

オレは控え室で手足を動かした。
リングの上では、馬場さんがハンセンさんの所に歩んでいる。
馬場さんの晩年には、オレは毎日試合を見ていたから、動き方を熟知している。

試合は、楽しかった。
ハンセンさんはハンセンさんのままだし、シンさんもやっぱり昔通りのシンさんだ。
馬場さんを演じているのはオレなのだが、試合をしながら涙が出て来た。
昔は良かったなあ。

金網の鬼と呼ばれたキムラさんは、アントニオと戦う頃には、もはや満身創痍だった。一騎打ちの前の日だって、巡業で金網戦を務めてきたのだ。
腰も悪く、リングに立っていられることが不思議な状態だった。
しかし、キムラさんは何ひとつ言い訳をする事無く、黙って耐えていたんだよな。
男の中の男とは、このキムラさんのような人のことを言う。

試合では、このオレの操作する馬場さんがシンさんにキックをお見舞いした所に、ハンセンさんがキムラさんにラリアットを一発かましスリーカウントを奪った。

試合が終わると、皆晴れ晴れした表情で、ハグを交わしている。
オレは馬場さんの体を操りながら、やっぱりまた涙を流していた。

ハンセンさんが、周囲を見回している。
あ、来るぞ来るぞ。待ってました。
この気配に、会場にいた全員が立ち上がった。

ハンセンさんが、左手のロングホーンを空に突き上げる。
全員がそれにあわせて叫んだ。
「ウィー!」
なるほど、馬場さんのアンドロイドを作った会社って、ここかあ。
この会社は、この絵柄が欲しかったんだな。きっとCMをこれで作るんだ。

だが、そんなことは全く気にならないぞ。
この夜を有難う。

ここで覚醒。
この夢が何を示唆するものなのかは、まったくわかりません。