日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

夢の話 第370夜 百鬼夜行

春の花粉時期。息をするのも苦痛です。
夜はマスクをしていますが、やはり寝られずゲッホゲホ。
そんな中、土曜の朝方に観た短い夢です。

山道を歩いている。

星を見に行ったのだが、田舎の近くでもあったので、実家に寄ろうと思いついた。
実家の両親は既に他界しており、今は家だけが残っている。
そこに行くのに近道をしようと考え、山を3つ越えることにした。
砂利の1車線道路だが、ここを通ると2時間は早く着くのだ。
日が落ちてからは、この道を通る車は皆無なので、かなりスピードを出して走れる。

ところが、最初の山を迂回したところで、タイヤがパンクしてしまった。
砂利が尖っていたか、釘を踏んだかしたのだろう。
携帯は当然繋がらない。
そこで仕方なく、里まで歩くことにした。
十キロはあるが、仕方がない。
真っ暗な道で足元が見えないので、トランクから懐中電灯を出した。

2つ目の麓道を歩いていると、遠くに集落が見えて来た。
「あれ?こんなところに村なんかあったっけ」
家はうっすら分かるが、街灯は点いていない。
家の灯りも見えず、十数軒の家が暗闇の中に立っている。

「電話でも借りたいところだが」
この地域に知り合いはいない。そのため、どこに電話を掛けるでもない。
迎えに来てくれる人はいないのだ。
警察に電話を掛けて、「事故った」と言えば、ひとまず見に来てくれるかもしれないが。

最初の家に着く。
玄関口に近づいてみると、やはり人気が無い。
扉に手を掛けてみたが、がっちりと鍵が掛かっていた。
おまけにその扉の上に、何やらお札のようなものが貼ってある。
「何だこれ?封印してあるのか。あるいは護符だろうか」
次の家に行ってみる。
この家も同じだった。
念のため、玄関のドアを叩いてみたが、やはり人の気配はない。

集落の中央に着いたが、どの家も同じだった。
灯りは無く、人気も無い。ドアにはお札が貼ってある。
「どうしようか」
さすがに途方に暮れて来る。

すると唐突に、後ろの方から、何やら人の気配が風に乗って漂って来た。
さっき、迂回してきた山すそを回って、こっちに来ようとしているのだ。
「この村の人はどこかに行っていたのか」
5百辰藁イ譴討い襪、灯りも沢山見えている。
松明の灯りだった。
「今どき松明とは。随分と大時代だな」
山裾から、少しずつ人の姿が見えて来る。
思いの外、沢山の人たちだった。
前の方だけで、百人はいる。
「十数軒しかないのに、人があんなにいるわけなの?」
ところが、群衆はそれで終わりではなく、後ろにも続いていた。
ぞろぞろと姿を現すが、1千人を超えても、まだ後ろが終わりにならない。

人々が3百辰らいに近づく。
松明だけでなく、長短の幟を立て、人々は何かを声高に喚きながら歩いていた。
2百叩徐々にひとり1人の姿が見えて来る。
「うわ。何だあれは」
手足が捻じ曲がったような男や、鳥の頭をした女が見える。
その後ろには、楽に2辰鯆兇┐討い修Δ福∩歓箸真っ赤な入道もいた。
「おいおい。あれは人間じゃない。化け物たちじゃないか」

なるほど。ここで合点が行く。
家々の玄関にお札が貼ってあったのは、破魔札だ。
この村の人は、今晩、あの化け物たちがここを通るのを知っていたので、この村から逃れているのだ。
家に入り込まれて、家具や調度を壊されないように、お札を貼っていたのだ。
「これはもしかすると・・・」
百鬼夜行というヤツではないのか。
あの異形の者たちは地獄の亡者で、何年も何百年も苦しんでいる間に、ああいう姿に変わったのだ。

まずいぞ。
あれに追いつかれて、隊列の中に取り込まれたら、オレだってあの仲間にされてしまう。
早く逃げなくては。
「いかし・・・。一体どこに逃げればいいんだ」
ここは一本道で、前後は総て登り坂だ。
どっちに逃げても、オレの姿はあいつらから見えるのだ。
オレはすぐさま追い詰められた。

「こっちだよ。こっち」
オレの横の方から声が聞こえた。
すぐ近くの家の脇からだった。
オレがそっちに顔を向けると、家の陰から子どもが顔を出していた。
「こっちに来て」
道の方に目を遣ると、鬼たちはもはや百辰里箸海蹐泙廼瓩鼎い討い拭
選択の余地は無い。

家の脇を回り、後ろに行くと、そこに子どもが立っていた。
7、8歳くらいの女の子だった。
「ここの大きな榊の木の後ろに祠がある。そこに隠れていれば見つからないよ」
女の子はオレの手を取ると、先に立って歩き出した。
オレは女の子に引っ張られるように、大木の陰に向かった。

その先には土を盛り上げたような小山があり、その上に祠が祀ってあった。
「ここは、昔のお墓だな」
千年以上前のお墓だ。
今はお墓のことを探索している暇はない。オレは祠の陰に身を隠した。

鬼たちがすぐこの場所に到着した。
つい20知イ譴親擦両紊魑瓦燭舛ぞろぞろと歩く音が聞こえる。
時折、「ぎゃあ」とも「うわあ」ともつかぬ声を上げる者がいて、その度にオレは肝を冷やした。
それほど怖ろしい姿をしていたのだ。

果てしなく続くかと思われる長い時間が過ぎて、鬼の行列が遠ざかって行った。
「もう大丈夫だよ」
女の子の声に促されて、オレは祠の後ろから立ち上がった。
「いやはや。凄かったな」
「うん。今日は朔だったからね。朔の日にはあれが通るの」
「それで村の人が逃げている訳か」
「そうよ」
この子がいなかったら、オレはどうなっていたことか。
「どうも有り難う。おかげで助かった」
「気にしなくていいよ。これから先は助け合っていかなくちゃならないもの」
「え?」

ここでオレはあることに気がついた。
「ねえ。他の村人がこの日はどこかに逃れ出ているのに、どうして君はここに残っているの?」
女の子が微笑む。
「だって、怖くはないもの」
「あんな鬼たちを見ても怖くないの?」
「うん。だってワタシだって、死んでるもの。あっちの人たちと大して変わらない」
「おいおい。何を言ってるの」
ここで、オレはぎくっとした。
オレは元々霊感がなく、幽霊の存在を信じたことが無い。
そのオレが、いきなりあん百鬼夜行に出くわすなんてことが起きるだろうか。
女の子がくすりと笑う。
「気がついた?ワタシだけでなく、小父さんも死んでるの」

オレの周りを七色の光が回り始める。
回っているのは「記憶の輪」だった。
そう言えば・・・。
オレはここに来る途中で運転を誤り、車ごと崖から落ちたんだったな。

「思い出した?」
「ああ。何とかね」
もう一度、女の子が可愛い笑顔を見せた。
「もうそろそろ生まれかわる時だよ。今度生まれたら、ワタシと小父さんは結婚するんだからね。だから、今夜は小父さんのことを助けたのよ」
「また生まれて、大人になったら、オレと君は結婚するの?」
「そう。それは決まってることなの」
この子とは何となく馬が合いそうな気がしている。
この子がパートナーなら、次の人生も悪くないかもな。

「じゃあ、次の人生では、君がオレの奥さんかあ」
「違うよ」
「だって、さっき君は俺たちが結婚するって言っただろ」
「そうだけど、小父さんがワタシの奥さんになるのよ」

う。次は女だったのか。

ここで覚醒。

日本中の杉の木を伐採してはくれんかな。
春は杉、秋はブタクサだっけか。
肺の中がヒリヒリで、トイレに行くのもしんどいです。
花粉症とは無縁の人に「なんでマスクしてんですか?」と訊かれると、「殺してやろうか」と思います。

この夢の話は、そんなに悪くないです。
少し捻ると、ショートショートになるかもしれません。