◎古貨幣迷宮事件簿 閑話休題 「写しあれこれ」
その1)「加賀出来」の絵銭
その1は大迫駒引を写したもので、俗称で「加賀出来」と呼ばれる。
なかなか見栄えのする金味で、四五十年も経てば、如何にも古そうに見えるだろう。
本銭との決定的な違いは、銭径が著しく縮んでおり、せいぜい80%程度しかないことだ。
だが、こういう後出来の品は、資料として持って置くべきだと思う。
参考銭を作る目的は、「如何にもそれと分かる摸鋳品」を作ることではなく、「真贋の見分けのつかない品」を作ることにある。
そうなると、この金味は強敵だ。亜鉛の配合などは、奥州のいずれかにありそう。
盛岡銅山銭あたりを作られると迷う人が出て来る。
しかし、表面の谷を見ると、余りにも平坦過ぎる。おそらく砂范製でなく、石膏か粘土型。このため、銭径が縮小する。
輪側はむしろ丁寧で、蒲鉾型に研磨してある。きれい過ぎるというのが、逆に難点になる。本物であれば、角を砥石で丸めたりせず、中砥あたりでががっと仕上げるから、必ず線条痕がくっきり残る。
その2)南部ではない写し
朝鮮絵銭の写しに、あえて「南部ではない」と書くのは、南部領で中国銭や朝鮮銭の写しが作られており、かつそれらが希少品として扱われることによる。
地元南部の人は、都心に出る機会があると、必ずコイン専門店に行き、雑銭ボックスを探す。これは1枚千円のがらくた銭から、「南部写し」を探すためだ。
昔はこのようにして、絵銭から「南部写し」、寛永銭から「密鋳写し」を選り出すのが容易だったが、今はウブ銭が入らなくなったので、それも難しくなった。
それ以前に、もはやコイン店が絶滅危惧種だ。
幕末であれば、地金が赤く、明治初期であれば黒くなるのが、南部系の写しだが、その他にも仕上げを見る必要があるから、経験を要する。
この品は縮小しているが、本銭の何次鋳に当たる品か、朝鮮での写しだろう。
その3)打刻銭
古銭会の盆回しに出ていたので、とりあえず入手した品だ。
裏面に打刻があるが、「卦書き」の何かであればそれなりの意味がある。
品物自体よりも、知識の方が重要だから、中国人収集家に落としてもらうべく出品してみたことがある。一時期中国銭コレクションを出していたことがあり、中国人収集家二十人くらいが固定客だった。落札してもらえれば、「これは何だったか」と訊くことが出来る。
そういうケースでは、ほとんどの人が嬉しさから本音を語る。
しかし、反応が無かったので、中国人も知らない打刻だと分かった。
後になり、何のことはなく、「朝鮮で打ったもの」だと推測がついた。
こういう感じの打刻銭は、半島ではよくある。
残念だが、日本には朝鮮銭のコレクターは少ないので、結局、文鎮になった。
こういう感じの品はコレクションの対象ではなく、あくまで興味本位に基づく知識の範囲だと申し添えて置く。誤りもあると思うが、道楽の分野では、疑問は自身で解決するものだ。