日刊早坂ノボル新聞

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<北斗英雄伝>「雪の降る朝に─盗賊の赤虎が最期を迎える話─」ダイジェスト

「雪の降る朝に─盗賊の赤虎が最期を迎える話─」のダイジェストをホームページに掲載しました。
全14回程度の短編でもあり、ダイジェストも短くなっていますので、こちらにも掲載します。
 
〔『北斗英雄伝』異聞〕
雪の降る朝に ―盗賊の赤虎が最期を迎える話― ダイジェスト
 
 天正十九年の一月。毘沙門党の首領である赤平虎一(赤虎)の許に、末弟の熊三が殺されたという報せが届く。
 粗忽者で度々規律を乱す熊三ではあるが、やはり赤虎にとっては血を分けた弟である。
 赤虎は事の次第を確かめるために、三戸の伊勢屋に向かった。
 早朝、赤虎が伊勢屋の門を叩くと、弟を殺したという猟師・厨川五右衛門(疾風)が現れる。
 赤虎が疾風を問い質す間も無く、手下たちと猟師の間で戦闘が始まった。
 猟師が携えていたのは小刀一本と出刃包丁だけである。しかしその猟師は恐ろしい程の腕の持ち主で、手下たちが次々と倒された。
 五年前に怖谷に同行し、赤虎が我が子のように可愛がって来た赤龍青龍兄弟が殺されるに及び、ついに赤虎も決闘に加わった。
 首領との戦いが始まると、伊勢屋の二階から猟師に向け、大刀が投じられる。それを受け止めた猟師の左手には、かつて怖谷で赤虎が生贄の女子(お藤)に付けたのと同じ「夲(とう)」という文字があった。
 
 輪廻転生は時を選ばぬ。お藤が転生するのは、その死より後に生まれた者とは限らない。
 赤虎は、その猟師がお藤の生まれ替わりであることを確信する。
 赤虎は猟師にその事実を知らしめ、自分を倒すことが出来た時は、前世の父母に会いに行けと告げる。
 猟師がいかに武術に秀出ていても、歴戦の強兵である赤虎には劣る。赤虎は猟師を追い詰め、鉄棒を振り下ろす。
 その一撃を猟師がかろうじてかわすと、鉄棒は井戸の柱を倒し屋根を落とした。
 赤虎は鉄棒を引き抜こうとするが、どうした訳かまったく抜けようとしない。
赤虎が脇に落ちていた木札に目を留めると、そこには「玉乃井」という名が記されていた。
 怖谷で、お藤と共に生贄としたもう一人の女子の名が「お玉」である。
 ここに至り、赤虎は己の宿命を悟った。
 かつて己が女子たちに与えた付けを払う時が来たのだ。
 赤虎は両手を左右に広げ、猟師が突き出して来る刀の刃を正面から受けた。
 
 赤虎が我に帰ってみると、自身は暗闇の中に独りで立っていた。
 ここが地獄であることを、赤虎は怖谷の経験から知っている。
 かつて、赤虎は最愛の女子である七海を救うために、己一人が地獄に落ちることを選んだのであった。
 その時、赤虎の左手の中に滑り込んでくる小さな手があった。
 「雪・・・」
 雪は七海の子である。
 間を置かず右腕に別の腕が絡み付く。
 「虎一さま。わたしはこの先ずうっと、虎一さまのお世話をしてあげても良いぞ」
 横を向くと、そこには七海が寄り添っていた。
 赤虎はその母子と手に手を取って、三途の川を渡った。
 
 江刺家大滝の庵では、巫女の柊女が瞑想をしていた。柊女はかつて地獄の穴を塞ぐため怖谷に同行した、あの赤虎が死んだことを悟った。柊女は赤虎が地獄に留まらず三途の川を渡ったことに安堵した。
 しかし、柊女の胸には、この年に狂人秀吉によってもたらされるであろう災禍の予感が、黒雲のように渦巻いていた。