日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎夢の話 第729夜 母を送る

◎夢の話 第729夜 母を送る
 4月26日の午前3時に観た夢です。

 母は一時帰宅で家に戻っていたのだが、俺が送っていくことになった。
 確か母が戻ったのは昨日だから、今回はわずか一泊だけの短い滞在だったことになる。
 病院の送り迎えや、今の居場所との送り迎えは、専ら俺の務めになっていた。

 実家の前に車を寄せると、母は玄関の前に立っていた。
 落ち着いた色の着物を着ていたが、これがよく似合っている。
 やはり戦前生まれの人は着物がよく似合う。よく着ていたから、体に馴染んでいるわけだ。
 この日、母の顔色が良く、調子の良さが表情に表れていた。

 母は珍しく後部座席に座っていたから、俺はそっちを振り向いて言った。
 「もう少しゆっくりしていけば良いのに、もう帰るの?」
 「うん。お前も大変だろうから、ちょっと顔が見られればそれでよい」
 「孫を連れて来てれば良かったけれどね。次は予め言ってくれれば、誰か寄こすから」
 「お盆とかでいいよ」
 外には50センチ以上、雪が積もっている。
 昨日は一日中、降雪でいきなりこれだけになったのだ。
 運転が大変だが、除雪車がソコソコ払ってくれたので、通行は出来る。
 
 車が山道に入り、坂をどんどん上っていく。
 遠くの山々が見えるが、どこも雪に覆われていた。
「随分、上に上がって行くなあ。昨日はよく来られたね」
 「なに。こっちに来るのは簡単だもの」
 雪道に轍が出来ていたから、それをはみ出さないように慎重に進む。
 迂闊に乗り越えると、スリップして動けなくなるからだ。
 長い山道が続く。
 
 唐突に母が口を開く。
 「お前があっちと行き来出来るから、わたしも時々来られる」
 ミラーで母を見ると、この時、母が初めて笑っていた。
 俺は内心で思った。
 そうか。母が独りで行けるところは、生前、最も馴染んだ場所だ。すなわち、今は倉庫になっている昔の実家になる。そこには誰もおらず、母が戻ったことに気付く者はない。
 すなわち、俺が母の帰省を悟り、母を送りに来る時だけ、母は家族と会えるのだ。
 今の母にとっては、自由に会えるのは俺だけだ。

 ここで俺は後ろの母に言った。
 「でも、俺がお袋のいるところと行き来出来るってことの意味は、あの世とこの世を行き来しているってことだ。そうなると、俺はもう半分は死んでいることになるよな」
 ここで覚醒。

 リアリティのある夢で、途中まで、当方は母が亡くなっていることを完全に忘れていました。
 書いている途中で、強い雨が降り、これが終わると、玄関先でごとごとと音がしました。