日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎宿谷の滝にて

宿谷の滝にて

◎宿谷の滝にて

 毛呂山町にある宿谷の滝は、数年前まで埼玉西部で有数の霊場だった。

 「だった」と記すのは、今ではほとんど異変が起きなくなっているからだ。

 初めて訪れたのは、七八年前のことだと思うが、山道を上って行くと「カヤカヤ」と人の話し声のような音が聞こえた。襖二枚を隔てた別の部屋から聞こえるような小さな声なのだが、滝に到着しても、他に人は誰も訪れていなかった。

 この「小さい話し声が聞こえる」というのは、あの世現象の典型的な兆候のひとつだ。そこで、少なからず興味を持ち、時々この地を訪れることにした。

 一年に五六度ずつの頻度でこの滝を訪れたのだが、入り口を入って数十㍍先に進んだ左手に最も圧力を覚える地点があった。具体的には、そこに「穴」があるように感じたのだ。「穴」とはこの世とあの世を繋ぐ接点のようなもので、死者がそこから出入りする。

 街中では「扉」と呼ぶことにしているが、これは単なる例えだ。

 山道の途中で、犬を連れた訪問客と行き合わせたことがあったが、犬二匹が「穴」の直前で立ち止まり、まったく動かなくなった。その場に固まり、じっと「穴」の方角を凝視しているので、恐らく人間には見えぬ何かを見ていたのだろう。犬たちはその場に四五分も留まり、飼い主が幾ら引いても動かなかった。

 もっとも異変が著しかったのは、平成二十八年頃だ。平日の昼に家人を連れて行ったのだが、訪問客が他にいないのに遠くから声が聞こえていた。

 家人も私同様にこの声を耳にしたので、けして気のせいではなかったということだ。

 入り口にトイレがあり、そこを右方向に進むのだが、「スポット」は割合手前にあり、上り始めて四五十㍍も行くと異変があれこれ始まった。

 目視で直系五十㌢ほどの煙玉を見たことがある。

 

 煙玉画像はそれこそ幾らでも撮影出来たのだが、多くは蒸気玉すなわち自然現象だったと思う。谷の底に渓流が流れており、滝の周辺は壷型の地形だから、湿気が籠りやすい。籠った空気に埃の芯と水気、それと日光かフラッシュ光があれば、煙玉が写真に写る環境が整う。

 ただ、煙玉は令和二年頃からあまり写らなくなった。撮影環境はさして変わらぬと思うが、一時期を境に写らなくなった理由はよく分からない。

 異変自体、あまり認知できなくなったので、おそらく「穴」を含め、あの世との関りが薄くなった、ということだろう。

 あの世現象が盛んな頃は、そこに住む方々に無用な迷惑を掛けぬために、この地の名を秘匿していたが、今ではごく普通の風光明媚な観光地なので、これを隠さずに良くなった。

 こういった「穴」はニ三年で消失することもあるようだ。

 

 ま、幽霊を体感したいなら、宿谷の滝から山越えの道を進み、鎌北湖に向かうと良い。通る度に思うが、滝から湖に向かう場合は、途中、道の右側を女の人(の幽霊)が歩いていると思う。

 (「助けて」という声が聞こえる気がするのだが、これが女の声だ。)

 目視したいなら、昼夜のいずれかの二時から三時くらいにこのルートを進むとよい。

 赤外線に反応するので、夜の方が見え易い。

 もちろん、興味本位だけならお勧めしない。山を越えた辺りで振り返ったら、後部座席に誰かが乗っているかもしれぬ。驚いてハンドル操作を誤ると、崖から落ちてしまう。

 もし後ろに誰かが乗っていた時は、そのままお寺か神社に連れて行き、ご供養してあげれば功徳になる。

 もちろん、他に何が起きても自己責任だ。

 死者には「常に敬意を持つ」ことが基本姿勢だ。好奇心を満たす対象としてはならない。