◎夢の話 第1114夜 宿命
十月十五日の午前二時半に観た夢です。
我に返ると、俺はどこか知らぬベンチに座っていた。目の前が道路で、道路を隔てた向かい側に建物が見える。二十階建てくらいの高層ビルだ。
俺はバス停のベンチに座っていたらしい。
向かい側のビルにはひっきりなしに人が出入りしている。
その様子をただじっと見ている。
「俺は何をしているんだっけな」
うーん。よく思い出せない。
自分の姿を見返すと、黒いスーツを着ていた。礼服だな。
ネクタイはしていないから、何かの式に出た・出るわけではないらしい。
「いつ何時死んでも良いように、いつも礼服を着るようにしようと考えていたが、俺はそれを実践しているようだな」
道端で倒れて、あの世に行っても、そのまま棺桶に入れて、火葬して貰えば簡単だ。
長い間、ビルの入り口を眺めていたが、ようやく男が出て来た。五十歳くらいの男で、まだ若いのに髪がグレーだ。染めている。
「よっこらしょ」と声を出して、立ち上がる。
道路を渡り、目当ての男の十メートル後を追い始めた。
ここで俺はこう考えた。
「あと二分三十秒でコイツは死ぬ。そこで俺がコイツの魂を回収する。雑多な悪霊たちに食われる前にな」
ここで俺は自分が何者かを思い出した。
「なるほど。俺は死神だったわ。俺は死んだ後に自分が『この世とあの世の渡し役』になるのではないかと思っていたが、実際にそうなったらしい」
それから、俺は手を伸ばして、男の肩に触れた。
男にとっては、羽毛ほどの重さの感覚だろうが、それがコイツが最後に感じる感覚になる。
ここで覚醒。
目覚めた直後に、「早く戻って来て務めにつけ」という声が聞こえた。
時々「お迎え」たちを目にして来たが、あの者たちについて疑問に思ってきたことがある。黒い服を着た女たちは、ひとの最期を看取る死神だったが、何故か恐れを感じなかった。またアモンは明らかに悪魔もしくはあの世に巣くう悪霊だが、私に悪意を向けない。
その理由は「俺があいつらの仲間だからだ」と改めて思った。
死は誰の身にも降りかかる必然で、理不尽にやって来る。
夢の中の「俺」は、それを悪意なく与える務めを担っていた。
いずれ実際にそうなると思う。