◎病棟日誌R070116 影の薄い人
◎病棟日誌R070116 影の薄い人
ベッドに行くと、Oさんが声を掛けて来た。Oさんは前回、扉を開けて当方を待ち、転びそうになったジ-サンだ。
「昨日、二時頃に※※※※※※」
話の内容が殆ど分からない。
まるで津軽弁のバーサンみたいだが、方言で分からないのではなく話し方が弱くて文章が聞き取れぬのだ。
テキトーに相槌を打ち、お引き取り願ったが、後で考えると中身はこうだった。
「昨日、午後二時になって連絡が来た。送迎は要りませんと言伝したのに、それが運転手に伝わっておらず、『どうしました』との照会が来た」
このジーサンは存在感が薄く、朝の送迎バスも、待ち合わせ地点にジーサンが立っているのに、前を素通りすることがあるそうだ。運転手の眼に入らない。
看護師へ言伝したが、もにゃもにゃの話なので、そのまま忘れてしまったらしい。小柄で物静かで、定義正しく、存在感が薄い。
問診は長身看護師のTさんだった(元バレー部)。
「全死にたいところだらけなのは変わりなし。特に股関節は歩く度に呻くほどです。これってもしかすると、ずっとこのままなのかも」
Tさんの反応で、そういうジジババが多いんだなと分かった。
なるほど、世間にカートを押して道を歩くジジババが沢山いるわけだ。そうしないと歩けない。
当方もそうなるのか(ゲンナリ)。
すると、Tさんが「私も膝が痛いんです」と言う。
「そりゃ、若い頃にスポーツをやり過ぎたからですよ」
バレーボールのアタッカーなら、膝に来るだろうな。
過度の負担を掛けたが、そのツケが29年後30年後になり回って来る。Tさんはアラ40だろうから、かなり早い方だ。
大体は50台で、雨が降ったり雪が降ったりした時に、突然痛みを覚える。それが始まると、次第にいつでも痛くなって行く。
抜針は栃木出身の新米看護師(男の子)。
髪を切ったらしく、最初は別人かと思った。
誰も話し掛ける人がいないだろうから、声を掛けた。
「いつも定食を食べてるの?」
二十二三歳なら、大体は定食屋で食べる。
「いやあ、僕は自分で作ってます。部屋の近くには食堂が無いんです」
「じゃあ、母ちゃんが食い物を送ってくれるだろうね」
「学生の頃はそうでしたが、今は来なくなりました」
働くようになったから、まあ、自分で食えるってことになったんだな。
だんだん慣れて来たらしく、他の看護師とは世間話を少ししている模様。
エリカちゃんも言っていたが、都心にも勤め先(病院)が沢山あり、仕事を見付けるのは難しくないが、電車通勤はしたくないので、埼玉で働いている。
朝夕の電車に乗るくらいなら、給料が高くなくとも、埼玉や神奈川の方がよいそうだ。
この子も栃木の町村部の出身だし、都会の喧騒が好きではないのだろうと思う。
当方もどうしても人混みに慣れなかった。