◎病棟日誌 R070301「悪戯者の性」
◎病棟日誌 R070301「悪戯者の性」
病棟に行くと、向かいのベッドが空だ。あの職人さんは、やはり入院病棟に移ったらしい。何百人も見ているから、おおよそ想像がつくが、こんな感じの時には、ほぼ戻っては来ない。
身体機能が限界に達したことの一環として腎不全が起きているから、他の機能も落ちている。腎不全になってひと月くらいだと思うが、崩壊が始まればこんなもんだ。
大半の患者は腎不全になった段階で、かなり落ち込む。
「もう自分の人生は終わりだ」と思い、食事が摂れなくなるし、治療自体がキツい。ぽろっと自死してしまう人もいる。
ここから気を取り直すのに二か月くらいかかるが、その簡にある程度腹を括り、「生きられるところまで生きよう」と思う。
その辺まで生きていられれば、自分の死を受け止められる。
だが、終わりは想定よりも早く来る。
心の準備が出来ていないから、泣き叫んで死んでゆく者も多い。
「この人はかなりヤバい」と思った時には、もう目を向けないようにした。
当方は時々、説明のつかぬものを観るから、「黒いひと」なんかがいるのを発見してしまうかもしれん。
ま、Aさんのように、フランケン状態(手術痕だらけ)になっても戻って来る人はいるが、大概が女性だ。男性はやはり女性よりも弱く出来ている。
ベッドには備え付けのテレビがあるのだが、リモコンの数が足りぬらしく、時々、テーブルに置いていないことがある。
不在患者のを探して来てもらうのが面倒なので、自分用の共用リモコンを持っている。細かい操作が出来ず、音量調整やチャンネルの選択だけ。だが、共用だけに、信号が強く発信されるようで、この日、自分のテレビを点けたら、隣りのジーサン患者が看護師に「入れてないのにテレビが点いたよ」と報告していた。
看護師は「別の人の電波を拾っているんでしょうね」と答えた。
隣で聞いていて、「あ。俺だわ」と思った。
備え付けのリモコンは電波が弱いし、スイッチがバカになっているのでほとんど反応しない。
ここで閃く。
「遊ぼう」
ここはカーテンで仕切られているのが役に立つ。
リモコンの先を隣に向けて、電源スイッチを押してみた。
隣のジーサンが、「また点いた」と言う。
やっぱり当方だわ。
念のため、もう一回やると、やはり同じ反応だった。
女性看護師のTさんが傍に居たが、すぐに「ああ。気持ち悪い」と声に出した。
ま、電気製品は割合、幽霊が操作しやすい対象のようで、当方も以前経験がある。
所沢の神社の下に住んでいる時には、おかしなことばかり起きたのだが、テレビやエアコンが勝手に点滅した。
最初の内は「隣近所のリモコン電波を拾ったんだろ」と思っていたが、点いたり消したりが目まぐるしく続く。
「バチバチバチバチ」みたいな勢いだ。
イライラしたので、当方はついに「テメー。お前が仮に幽霊なら、返事をしてみろ。1回じゃあ分からんから、2回点けてみろ」と怒鳴った。
すると、間髪入れず「バチン。切。バチン」と2回テレビが点滅したのだった。
返事をするんじゃあ、幽霊の仕業だって線が濃くなる。
この他、当方の仕事部屋に誰もいないのに、夜中に足音がしたりとか、まさにバケモノ部屋だった。
窓の外に洗濯物を干していると、それが風に揺れる度に、人が立っていたりした。びっくりしてベランダに出るが、誰もいない。
「こりゃ、リモコン電波説を確かめるのに良い機会だわ」
そう考え、向かい側のベッドのテレビめがけて、スイッチを押したが、別段、反応が無かった。
隣のテレビまでは、1㍍半だが、向かい側迄は4㍍はある。
4㍍離れると、割と強めのリモコンでも電波は届かない。
「隣の家のリモコン電波が」という説はまず起きないと思う。
電機的なものなら、少し別の要因だろうと思う。
スイッチを入れる時に「おりゃ」「おりゃ」という勢いでリモコンを押したが、最後の方を看護師のエリカちゃんが見ていた。
後で、ナースステーションでこの話題になれば、「あれはあの人が」とバレてしまう。へへ。隣のジーサンはかなりボケて来ているから、当方の仕業だと気付かないと思う。
当方は元が悪戯者で、法螺も吹けば嘘も吐く。こういうのはやめられんな。どうしても事実を確かめてみたくなる。
注記)眼疾で充分に文字が読めません。誤変換が多々あると思います。