日刊早坂ノボル新聞

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◎病棟日誌 R061102 「元気な者はきちんと食べる」

病棟日誌 R061102 「元気な者はきちんと食べる」
 朝に眼が覚めたら、両腕の感覚がない。
 ついに腕にも動脈硬化が来たか。
 しかし、十五分くらいすると血行が戻って来た。
 「そう言えば枕が低いから、頭の下に腕を入れて寝ていたかもしれん」
 それで血が止まったか。
 まったく同じ症状だが、血管が塞がっていれば血行が戻ることは無い。そのまま腐って行く。手足を失うのは、腎不全患者には宿命のひとつだ。
 足指の傷が治らぬままなのは同じだし、今は肩や股関節・大腿がやたら痛む。神経痛の疑いが高いのだが、まったく同じ症状で動静脈の梗塞の可能性がある。
 脚が付け根から無くなる可能性があるので、やはりビビってしまう。痛み自体には、不平や愚痴を漏らしこそすれ、別に平気だ。いつもどこか痛むわけだし。
 命を失うのは寿命だが、眼が見えなくなるのと歩けなくなるのは、この齢からではキツい。
 ま、周囲を見ると、動脈硬化で脚を切断すると、ほぼ半年でこの世を去る。動脈が機能しなくなっているのは、脚だけではないからだ。
 病棟では、とりあえず坐骨神経痛の改善方法を聞いた。
 ストレッチと整体しかないわけだが、これが動脈硬化の場合であることを重ねたうえで選択する必要がありそう。

 ガラモンさんのベッドの前を通ると、しょんぼりと座っていた。以前よりかなり痩せた。
 「脚が細くなったね。随分痩せた」
 すると、ガラモンさんは黙って、腕を差し出した。
 「ほら。こんな具合になった」
 痩せた話ではなく、腕に青タンが出来ていた。
 十センチを軽く超えそうな幅の青タンだ。
 「あんれまあ。まるで彼氏が不良でDVしまくりみたいだね」
 ま、看護師が穿刺にしくじったということ。
 「痛くて参ったわ」
 「その大きさじゃあ、腕の血管を突き抜けて反対側まで出た按配だね」
 女性には血管が細い人がいるから、看護師も透析用の太い針を指すのは難しそう。バーベキュー用の金属串の方に近い。
 これじゃあ、血管の方も長くはもたない。

 この病棟の患者は、痩せ始めるのが「あの世へのバロメーター」だ。急にほっそりし始めたら、かなりヤバい。例外無く、程なく病棟から消える。
 それが嫌なので、「余計に食べる」ことと心掛け、半年で4キロ近く増量した。それ以前に、12キロ落ちていたから、意図的な増量だ。食事制限があるから、それに触れぬように太るのはなかなか難しい。
 最近、お腹が出て来たので、そろそろ現状維持に留めたいが、つい夜中に焼きおにぎりを食べたりしてしまう。
 食は習慣だから、身に着いてしまうとなかなか変えられない。

 食堂でジーサン患者に会った。
 80歳くらいで、気さくに挨拶をして来る人だ。
 しっかりしているが、それも「きちんと食べる」ことを心掛けているからだと思う。
 病院めしは少ない量だから、当方などは食べ終わるのに5分くらいだが、そのジーサンは40分以上かけてゆっくり食べている。
 いつも何やら話し掛けられるが、何を言っているのかまったく分からない。認知症が来ているのか、歯が無いのか。
 いつも「はあ、そうですか」とその場をしのぐ。

 このジーサンはまだまだ長く生きると思う。
 長く生きる人は一様に「食事を残さず、きちんと食べる」傾向がある。ま、具合が悪くなったら食べられなくなるから、「体調が悪くない」ことの裏返しだとは思う。