夢の話 第609夜 鏡の壁
13日の午前5時に観た夢です。
気が付くと、20×14辰らいの広さの部屋の中にいた。
結構な広さなのに、そんなに広く感じない。
「なぜだろ?」
部屋を見回すと、部屋の中央がガラスで仕切られていて、2つに分断されていた。
なるほど。これでは活動スペースが半分しかない。
ガラスの間仕切りに手を置いて、向こう側を覗いて見る。
「調度類の配置が同じだな」
鏡台みたいな椅子と机が置いてあり、その先の壁は全面が鏡だった。
向かい合った壁が両方とも鏡張りだったのだ。
「こりゃまた、どうしてこんなつくりにしたんだろ」
何かをする度に、自分の姿が視野に入り、煩くて堪らない。
しかも、鏡の壁が向かい合っているものだから、奥を覗くと、部屋の様子が何重にも映し出されているのが見える。
この部屋を設計したヤツは、よほど趣味が悪い。
その部屋に平気で住んでいるオレは負けず劣らず趣味が悪い。
「ま、仕方ない。ここで暮らしているようだから、慣れるしかない」
冷蔵庫を開けて、ビールを取り出す。
間仕切りの向こうのオレも同じように、扉を開き、ビールを取り出している。
もちろん、向きは左右反対だ。
一気に飲み干した後、向こうの「オレ」に視線を送ると、「オレ」の後ろの方に人影が見えた。
「あれ?」
振り返って、後ろを見るが、オレの周囲には誰もいなかった。
「おかしいな。ここにはオレ一人しか住んじゃいないのに」
まあ、気のせいだろ。
そう考えて、また普通の生活に戻った。
部屋は半分しか使えないが、元が広いから不自由はない。
オレはPCの前に座り、仕事を始めることにした。
すぐに没頭し、我を忘れた。
二時間ほど経ち、顔を上げると、向かいの鏡が目に入った。
まあ、こんなつくりだから、顔を上げれば必ず対面の鏡が見えるわけだが。
すると、鏡の中のオレの隣で、誰かが椅子に腰掛けているのが見えた。
「お、おい」
慌てて横を見るが、もちろん、誰も居ない。
「これじゃあ、まるでホラー映画じゃないか」
もう一度、対面の鏡を見ると、やはりそこには人が映っていた。
20台後半の男だ。
男は何かを考えているようで、椅子に座って物思いに耽っていた。
他人にはあまり言わぬようにしているが、オレは頻繁に幽霊を見る。
「でも、そういうのとは違う感じだな」
あの子はいかにも実体がある感じがする。
こちら側にはオレ一人だが、向こう側にはオレともう一人が存在する。
ここで、オレは気が付いた。
ここはガラスの間仕切りを隔てて、ひと部屋が二つに分けられている。
双方の壁に鏡があるし、物も対象になるように置かれているから、向かい側にあるものがこちら側を映したものだと思ってしまう。
ところが、その考えはおそらく誤りで、オレのいる側と向こう側はまるで別の世界になっているのではないか。
誰も居ないと思っていたが、実はそこにも誰かがいて、その誰かの周りをオレの影が囲んでいる。
「オレの自意識や世界観には、実は虚像が入り込んでいるが、それはオレ自身では認識出来なかったりしてな」
二つの世界は見た目そっくりだが、まるで違っているのかもしれん。
「鏡に映った自己かあ。哲学のイロハだよな」
これは間違いなく、ものの例えだ。
今の状況を通じ、オレの潜在意識が何かを伝えようとしているのだ。
「こちら側が現世で、間仕切りの向こうがあの世だったりして」
そっくりに出来ているけど、たぶん、まるで違う。
オレは立ち上がり、右拳を振り上げ、ガラスの隔壁を「タン」「タン」と叩いた。
ここで覚醒。