◎ツキの神さまは気まぐれ者
日曜に家人が仕事で学校に行くことになり、府中には行けなくなった。足が悪いし、独りで行ったら、間違いなくチューハイを飲む。
二杯飲んだら、立てなくなること必至なので、ここは我慢だろう。元々、外出時には「カミサンに手を引いて貰う」のが現状なわけだし。
新聞馬券では勝負にならない。
他人の評判だけで結婚相手を決めるのと変わりない。まずは本人を見て、「話はそれから」が基本だ。
そうなると、天皇賞はスルー(見)するか、ごく軽くに留めることになる。
ま、博打は人生なので(キッパリ)、とりあえず「捨てるつもり」でごく軽く買って、テレビで応援するのが筋。
そうなると、ほとんど頭から決め打ちだ。どうせ外すんだし。
秋の天皇賞にはセオリーがあり、1)前哨戦の京成杯かオールカマーを勝ち上がって来た馬、2)札幌とか新潟の夏競馬で調子を上げて来た馬、が軸馬候補になる。1)はウォッカほか山のようにいるし、2)はオフサイドトラップみたいな穴馬になる。
これだと、ぐりぐりの本命はレイデオロだ。こいつだけがキタサンに先着したことがあるわけだし。狙いはジャパンカップだろうが、ここからメイチ勝負かも。
次位候補は、新潟組に目立ったのがいないので、札幌記念を勝ったヤツ。
2頭だけだと馬単までなので寂しい。そこで「自分の好きな馬」を加える。
この場合、迷うことなくミッキーロケットだ。先行して押し切る競馬で、いつも3着から5着の善戦マン。カンパニーを思い出させてくれる。
「何だか、昔の女を懐かしがっているようだな」
やや女々しいが、男(オヤジだが)はそういうのを忘れんもんだ。
馬連からワイド・馬単が1点、三連複も1点で十枚ずつ。三連単だけフォーメーションで2点(2⇔3)。こっちは1枚ずつでOK。どうせ当たらない。
普段の購入金額の十分の一よりもまだ小さい。
テレビでレースを観ていたが、レイデオロが抜け出し、ゴール前でサングレーザーが差してきた。でも、画面じゃどうにも体勢が悪い。3着だよな。
「ほれみろ。1着3着だよ。ワイドを当ててやっとこさ元取りかよ」
すぐにテレビを消して2階に上がる。
1時間くらいして、夕食の仕度を始めたら、ニュースで結果を流していた。
「1着レイデオロ、2着サングレーザー」
おいおい。当ててたのか。
こういう時にバクチ好きの取る反応はひとつだ。
「何だよ。ちゃんと買っとけ」
腸がぐりぐりする。
これじゃあ、高校生のお小遣いくらいしかアガリがない。
終わってみれば、「オヤジの月給」以上に獲れるレースだった。
1番人気は買わないから、真面目に買っても当てていたと思う。裏セオリーがあり、スワーヴリチャードは「最初に消す馬」だから間違いない。ま、ミッキーロケットも消す馬だけど。三連複は外した可能性が高いが、単は総流しなので当てたと思う。
「またやられたなあ」
ツキの神さまは、本来、「憑きの神」と書く。
コイツは気まぐれ者、と言うより、まさに「性悪女」だ。
真剣にやった者のことをからかうし、今日みたいに、真面目にやらない者にはスカートの裾をまくって、太股をチラ見させる。
こっちが悔しがることを知っているのだ。
つくづく根性が悪いよな。
うまくあしらわれ、こっちはすっかり敗戦気分だ。
「お袋ならどう買うかな」
母は孫とのコミュニケーションを図るために、馬券をほんの少しずつ買っていた。
母の基本は、有力馬に跨る外人騎手だ。でも、やっぱり1番人気を避けるから、ルメール、モレイラの順なら当てていると思う。
「お祖母ちゃんみたいに買ってよね」という家人の声が、頭の中で響く。
亡き母は射幸心からではなく、孫との交流のために馬券を買ったから、まったく欲が無かった。
そのせいもあったのだろうが、生涯の馬券成績が「断然プラス」の人だった。
「ミッキーロケットは、やっぱり5着だったな」
ここだけはいつも通りで、クスクスと笑った。
ま、いずれコイツももう1つくらいはG1を勝つと思う。