◎夢の話 第967夜 診断
五日の午前五時に観た夢です。
病院に行くと、すぐに看護師が寄って来た。
「今日は再検査が入っていますから、すぐに検査室に向かって下さい。最初は心電図からね」
「え。こないだので何か引っ掛かったのか」
「そう。後で先生から説明があります。心電図、エコー、CTの順に進んでください」
「フルコースで進むわけですか。でも私はMRIだけはダメなんですよ。心臓にステントが山ほど入っているから磁気は使えない」
「分かっています。だからCT」
「そうですか」
こりゃ、冗談が効かないな。マジでまずいのか。
いつも検査室に通っているから、無自覚の病気が見つかるケースを沢山目にしている。
健康診断のつもりで検査を受けたら、「その日のうちに入院・手術」になる患者が時々いる。
検査を受け、自分のベッドで待っていると、看護師が呼びに来た。
「では先生が説明しますので、401号室に来てください」
「え。ここでいいのに」
401号って、大学の教室みたいな場所だよな。日頃、講義めいた催しをやっている。
そこにいくと、俺の担当医だけでなく、七八人の医師が横に並んで座っていた。
その正面に椅子が置かれていたから、俺はそれに座った。
担当医が口を開く。
「権田山さん。貴方の診断結果が出ました」
「はい」
「貴方はリーモンド・ヤコブセン・シュワイツェン症候群と言う病気です」
「何ですか。それ」
「心臓の弁が痙攣して、動かなくなります」
ああ、それなら思い当たる。俺の血統は皆が心臓病で、殆どの者が弁膜症だ。俺だってもちろん、その病気があるから、いつも体が重いし、不整脈に悩まされている。
「なるほど。こちらの先生方は、この病気のためにいらしているということですね。それほど珍しい病気ということだ」
心臓病の既往症なら、俺には山ほどある。心筋梗塞だけで三度治療を受けている。
でも、こんなに関心を持たれたことがないから、このリーモンドってヤツがよほど珍しい病気だってことだ。
そして珍しいだけでなく、かなり重い。
「すぐに手術をしないと、次に発症したら心停止するかもしれません」
ふうん。それじゃあ、来るべき時が来たのかもしれんな。
俺の返事を聞かず、医師は話を続ける。
「これは珍しい病気ですので、もしこちらの先生方が手術を見学することを許して頂けるのであれば、手術・入院費用は無料とさせていただきます」
「ちなみに、もし手術を受けないとどうなりますか」
「次かその次の発症で死にます。元々が致死率9割を超える病気ですから」
「え。そんなに?」
このところ、不整脈が酷く、右脚も浮腫んで来たから検査を受けたのだが、まさかそんな状態だったのか。ちなみに、心臓が悪くなると、普通の人は左足が浮腫むのだが、俺は何故かいつも右足だ。繰り返し発症しているから、今では右足の状態でそれが心臓病なのか、疲れなのかそれとも別の原因なのかが分かるようになっている。
「それなら、手術自体にもかなりリスクがありそうですね。まずは現状で、手術を受けない場合の致死率の予想はどれくらいですか」
「97%くらいです」
え、そんなに?
「手術を受けて成功した時の生存率は?」
「うーん。今のところ3~5%です。まだ殆ど未知の症例でして」
「それじゃあ、ほとんど変わらない。手術中の死亡率は?」
「まだ症例が少ないので95%程度ですね。難しい病気です」
ダメじゃんか。手術を受ければ、手術中に死ぬってことだ。
少し考えたが、もちろん、結論は決まっている。
「それなら、手術を受けずに、いつ来るか分からぬ次の発症を待っていた方が、結果的に長生きすることになるんじゃないですか。何日なのか、何か月なのかは分かりませんが」
「でも、この病気のことをよりよく知るきっかけになります。これからこの病気になる多くの人を助けられるかもしれませんし」
「そんなの俺の知ったこっちゃないですよ。研究が進むかどうかなんて、患者には関係ない。世のため人のためで、致死率95%の手術を受ける者はいません。死んだ後で自分の解剖をするのは構いませんけどね。その時は解剖されているなんて分からないから」
ここで俺は席を立ち、この部屋を出た。
いつもの病棟に戻りながら俺は考えた。
次の発症がいつ来るかなんて、自分自身には分からない。
今日の内なのか、明日や明後日なのか。
確かなのは俺はいずれ必ず死ぬってこと。
俺は必ず死ぬだろうけれど、生き死にを他人に決められて堪るかよ。
ここで覚醒。
でも、目覚めた後でよく考えると、夢の中の「俺」も、他の今は健康な人も、状況は大して変わらない。ひとはいずれ必ず死ぬ。だが、自身がいつ死ぬかなど分からぬし、知りたくもない。
ところで、「自分が死ぬ」夢は、夢として最高の吉夢だ。
程なく総ての状況が変わり、通常は「好転する」ことを意味している。
十日前から右足が異様に浮腫んでいたが、今朝はきれいに消えていた。