ついさっき、25日水曜の夜10時ごろに観た短い夢です。
「たまには妻に会いに行こう」
そう思い立って、すぐに出掛けることにした。
俺は今、妻とは別々に暮らしている。
今の俺は、どこか海岸に立つログハウスで、独りで暮らしているのだ。
毎日、穏やかな波を眺めて、ぼーっとしている。
「前に妻に会ったのはいつだっけな」
もう半年か1年前だろう。
はっきりと思い出せないのは、その間、まったく連絡がなかったからだ。
今はあまり深くものを考えないくらしだし。
この家から駅まで歩き、電車に乗った。
電車は最初のうちは海岸線に沿って走っていたが、じきに陸地の中に入り、郊外の街に近づいた。
そこで、急に暗い所に入る。
「おお。トンネルがあったのか」
トンネルの中は真っ暗だった。
がたん、がたんと、レールの音がする。
このトンネルが長くて、果てしなく続く感じがする。
「おいおい。こんな長いトンネルなんてどこにあったっけ?」
20分くらい経過しても、なかなか外に出ない。
もしかして、地下鉄なのかも。
しばらくすると、ようやく駅に着いた。
かなり地中深くにある駅だ。
「ここはどこだろ」
都心の深い所にある地下鉄の駅に似ている。
階段を登り、駅の外に出る。
持病が心臓なので、どうかと思ったが、案外簡単に登れた。
「妻の家はどこなんだっけか」
妻は前に俺たちが住んでいた家ではなく、今は別の家に住んでいる。
自然が豊かで、景色のきれいな場所だった。
「ああ。妻は空気の良い所が好きだったよな」
住所は分からないが、方向が間違ってはいない。
高原の上みたいな別荘地に着く。
「あの家だ」
山荘みたいだが、つくり自体は大きな家だ。
2階に広いベランダがある。
家の前に立つと、上のベランダから声が聞こえる。
妻と誰か男が話す声だ。
「もうそろそろ良いんじゃないか?」
これは男の声。
「でも・・・。まだ心の整理がついていない」
こっちは妻だ。
「そうは言っても、もう一緒に暮らしているようなもんだよ。きちんと結婚しよう」
「・・・」
結婚の相談だった。
男は妻に「結婚してくれ」と言っていた。
「でも、お父さんが・・・」
妻は渋っているようだ。どうやら俺のことを気にしているらしい。
ベランダの手すりにに妻が見える。
その妻の肩を男が抱き寄せる。
「もう旦那さんが死んでから2年以上経つ。そろそろ新しい人生のことを考えるべきじゃないか」
そうだよ。
もう前の旦那は死んでいるのだから、新しい男と付き合っても、結婚しても問題は無い。
ここで記憶が甦る。
「ああ。俺って、死んでたんだ」
そうだった。
俺は散歩に出かけたのだが、畑の間の小道を歩いている時に倒れたのだった。
そのままそこで心停止し、数分で亡くなったというわけだ。
俺はここですっかり胸を撫で下ろした。
「これなら大丈夫だ。きちんと妻のことを守ってくれる男がいる」
心配することはないよな。
すぐ近くの山の上には、桜が咲いていた。
もう散り始めている。
そこで俺はその桜の枝に、「ふう」と息を吹き掛けた。
桜の花びらが風に舞いあがって、空中を飛び、ひらひらと落ちた。
花弁が落ちたのは、妻の肩の上だ。
「チチ」
庭の方から小さい舌打ちが聞こえる。
視線を下に下ろすと、その家の庭に5歳くらいの幼女が立って俺を見ていた。
小さく首を振っている。
「関わったらだめだ」と言っているのだ。
そうだよな。俺はもう幽霊だし、生きている人間と関わるのは不味い。
「分かった」と言うように、女の子に手を上げる。
この子も幽霊で、この家の周りで遊んでいるのだな。
ま、俺ももう帰ろう。
再びトンネルを通って、今の俺が居るべき場所に戻るのだ。
もちろん、それは「あの世」のことだ。
俺は妻の住む家に背中を向け、もう一度歩き出す。
また、あの長いトンネルを通るのだ。
ここで覚醒。
夢の中では、私はもう死んでいました。
既にトンネルの向こう側に居ますが、心残りがあったので、海を渡らず、手前でじっとしていたようです。
海は三途の川で、これを渡ると、もう現世に関わることは出来ないのです。
しかし、妻の様子を見て安心したので、今度は向こう岸に行こうと考えていました。