夢の話 第471─1夜 『払う人』
温泉の旅館から「雪が多く無理のようですね」と電話を貰い、今日はキャンセル。
「なあんだ」と横になっていたら、すぐに眠りに落ちました。
2つの夢を同時並行で観たのですが、これはその1つ目です。
祝い事があり、電車で地方に向かった。
行った先は、どこか遠い地方の都市だった。
帰路は各駅停車に乗った。オレは田舎の景色を眺めるのが好きなので、2百キロくらいなら各駅停車に乗る。もちろん、2百キロでは戻っては来られないから、途中どこか大きな駅で新幹線に乗り換える。
ある地方都市に差し掛かる。
「ここは駅前のホテルのシェフの技が巧みだっけな」
羊肉のソテーとかが美味かった。既に、今のオレは羊肉くらいしか食べられないから、寄って行こうか。
羊肉は肉そのものが薬膳で、すい臓の薬だ。ダイエットにも良いらしく、ニュージーランドの義弟は羊肉ダイエットをやっていた。これはひたすら三食、羊肉料理を食べるダイエットで、実際に痩せる。痩せるが、その代わり、常時、全身がジンギスカン臭くなってしまう。
駅に下り、ホテルに入る。
レストランは混雑していた。
「ありゃりゃ」
ラストランにいたのは、いずれも観たことのある顔だった。
「あれは・・・」
オレの卒業校の関係者だな。
中央に白髪の老人がいて、花束を持っていた。
「あれは先生だな」
オレは直接その先生から教えを受けたことは無いが、確かに卒業校の教員だった。
漏れ伝わって来る話を聞いていると、どうやら、その教師の叙勲の祝賀会があり、その流れで、2次会でこのレストランに来た人たちだった。
教師は礼服で、他も礼服か簡礼服だった。
「オレが混じっても、違和感が無いな。オレも礼服のままだし」
教師がそばを通り掛かったので、ひとまず立ち上がって、祝辞を述べた。
しばらくすると、集まりが終わったらしく、人々がレストランから出て行った。
20人から30人の人が消えて、中にはオレと数人の客だけだ。
程なく支配人ら式初老の男がオレのテーブルに近付いて来た。
「では宜しくお願いします」
支配人はオレのテーブルに請求書らしき紙を置いた。
「え。何ですか?」
支配人は平然と、「今日の御代でございます」と答えた。
「オレは幹事じゃないよ」
「でも、他には誰も残ってはおられません。それに、貴方様はあの方たちのお仲間ですよね。先程、先生らしき方にご挨拶しておられました」
あ、見てたんだな。
ここでオレの頭の中で、くるくると考えが回り始める。
(今日はあの先生の祝賀会だったろうに。二次会は仕切り役がはっきりしてなかったんだな。ここは「オレは関係ない」と突っぱねるかどうか。)
ここで、オレは父の言葉を思い出した。
「年季の入った支配人が伝票を置くのは、けして金持ちそうな人でも、偉そうな人でもない。その中で一番、運の強い者の匂いを嗅ぎ取ってそこに置く。だから、そういう時は喜んで払え」
そうすれば、さらに一層運気が上がる。そこにいた人たちの運気を吸い取れる。
そっか。父の言う事に間違いは無い。
「はい。分かりました。私が出る時に一緒に払います」
伝票をちらっと見ると、二十数万だった。
(あの野郎ども。つけ回しをしやがって。)
と思いつつ、財布の中を思い浮かべる。
「ここは田舎だから、カードは使えないかも。最近、現金をあまり持たないから間に合ったかどうか」
情けないが、決して悪い気分じゃない。
ここで覚醒。
二十年近く前に、郷里で「ある集まり」があり、温泉に行くことになっていたのです。
実家から出かけようとすると、父が当方を呼び止めました。
「今日は何人来るの?」
「百人くらいかな」
「お前。幾ら持ってるの」
「会費は払ってあるから、別に大して持って居ないけど」
「少し待っとれ」
父は奥に行くと、また戻って来ました。
「ほれ。金を持って行け。念のため三十万くらい」
「何で金が要るんだよ」
「その集まりなら、お前が払うことになるからだよ」
何だか分からないが、「金をくれる」というので貰って置きました。
温泉に行き、一泊して、翌朝解散になったのですが、カフェテリアの隅で1人でお茶を飲んでいると、支配人が寄って来ました。
「ではこれを」
テーブルに伝票を置きます。
何かと思えば、部屋の冷蔵庫から飲み物を出し、精算しないで帰った輩が沢山いたので、それを「払ってくれ」というわけです。まあ、払わなかった奴らは、いずれも確信犯です。
まさに父の言った通り。
その支配人から見た「払う人」は私だったのです。
ま、仕切り癖とかがあるので、そういう気配が有ったのかもしれません。
夢はその記憶に囲つけた内容ですが、父に関する夢ですね。
まだまだ元気でいてくれよ。